十月の雲はいつのまにか優しい秋の形をして、街路樹は徐々に衣替えを始めていた。
そろそろ温かいポトフが恋しい季節になったな、などと思いながら藤堂はオフィスのドアを開ける。
「浩輔ちゃん、やってるねぇ、ほい、サンドイッチ」
パソコンとにらめっこをしている西口浩輔のデスクに、藤堂はパンの包みを置いた。
「わあ! ありがとうございますぅ。ちょうどお腹すいたと思ってたとこ」
何かにつけて美味しいものや可愛い物などをさりげなく手土産にするので、藤堂が『サンタ藤堂』などという二つ名で知人友人に呼ばれてて久しい。
『サンタ藤堂』の名は伊達ではない。
幼い頃施設を慰問してプレゼントを配っていたクリスチャンの母親を見ていた経験から、プレゼントをあげて人の喜ぶ顔が好きなのだという。
表参道の大通りに面して建つ、こ洒落た四階建てのビル。銀色の外壁は少し湾曲し、螺旋階段を上がった二階が『プラグイン』のオフィスである。
三、四階はギャラリーになっており、一階の駐車場には三台分のスペースがある。
藤堂が同僚だった河崎達也とともに大手広告代理店英報堂を辞め、河崎を代表にその元部下である西口浩輔と三浦章太郎の総勢四人からなる小さな代理店を興して二年目の秋を迎えた。
ちなみに藤堂と河崎は幼稚園児からのつきあいで既に三十年にもなろうとしていた。
嬉々としてサンドイッチの袋を開けていた浩輔のデスクの奥では、二人の男が難しい顔をつき合わせながら話し込んでいる。
「河崎さん、三浦さん、コーヒー淹れまししょうか」
「出かけるからいい」
河崎は浩輔にそっけなく返すと、三浦を促して立ち上がった。
「おい、義行、北国乳業の方はうまくいってんだろうな」
出掛けに河崎は藤堂を振り返った。
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