宇都宮と坂口の二人とのランチでは、一時間ちょっとの間に、主に坂口と工藤との間でキャスティングやスタッフやら制作日程など、大まかなところをたったか決められていった。
さっきはコーヒーだけと思ったものの、宇都宮や坂口が海鮮丼定食やハンバーグ定食などを注文しているのを見て、急に良太も食べたくなった。
「えっと、じゃ、俺も海鮮丼定食にします」
「朝飯食ったばっかで食わないんじゃなかったのか、良太」
「見てたら腹が減ってきたんです」
向かいに座る工藤にからかわれて良太は言い返す。
「若いやつはいいなぁ、実に」
からからと工藤の隣で坂口が笑った。
ランチを済ませた四人はホテルのラウンジでコーヒーを飲み、そこで宇都宮は公演中の劇場へ、工藤と良太は空港へと別れた。
部屋へ戻ると言っていた坂口が乗り込もうとしたエレベーターをまた降りて、フロントでチェックアウトをしていた工藤のところへ戻ってきた。
「言い忘れた」
「まだ何かありましたか?」
そう尋ねた工藤に坂口はニヤリと笑う。
「最近とんと噂もないと思ったら、なるほどそういうことか」
「は?」
坂口はロビーのソファにぽつんと座っている良太を思わせぶりに目で指示して、工藤の肩をポンとたたく。
「いいじゃないか、良太くん、色々がんばってもらうよ」
背を向けて手を振った坂口に、工藤は思い切り眉を顰める。
坂口ではなくどちらかというと宇都宮に意思表示したつもりだったのだが。
まあ、いいか。
坂口が知ったところで害はない。
「行くぞ、良太」
「はい」
良太には、自分の後ろをついてこい、とは口にできない工藤だが、宇都宮には、俺のモノに手を出すな、と釘を刺しておきたいとつい思ってしまった。
そんなおのれを嗤い、苦み走った顔をさらに険しくして、すれ違う人々をビビらせたオヤジ工藤だった。