ようやく沢村は文句を並べたてながら電話を切った。
逢いたいだけ……か。
そんな風にストレートに言えればいいよな……
いや、初めはそうだったんだ、俺も。
良太のまっすぐな性格上、いつも直球勝負でやってきたはずだ。
けど、どこからか、工藤に対してだけは直球では行けなくなった。
まあ、あんな海千山千ってオヤジだからな。
裏の裏の裏を読んでも、トルネードでも、何か太刀打ちできないみたいな気がする。
こないだの怪我だって、組とかに関係あるみたいで、あの得体の知れない波多野ってやつが絡んでんじゃないか、って勝手に推測するしか、だってあのオヤジ、俺には何も言ってくれない。
それが哀しい、というより、やはり工藤にしてみると、俺なんかてんで役に立たないガキでしかなくて。
「そろそろ行くけど、良太、まさか仕事?」
ラウンジに戻ると、志村が立ち上がった。
「いいえ、そうではないんですけど、鈴木さんにオルゴールを見てくるように言われてて。娘さんのバースデイプレゼントにしたいって」
良太が出張のたび、快く猫の世話を買って出てくれている鈴木には頭が上がらない。
時間があればでいいのよ、と控えめな頼みだったが、ドーンと時間が空いたからには何にせよまず小樽の街を散策する必要がある。
かつては港湾の貿易で繁栄した街は、その名残を今度は観光へ向かわせ、冬にも情緒豊かなイベントが用意されている。
残念ながら今回はそのイベントには間に合わなかったが、雪に覆われた運河や歴史的建造物などを眺めながら通りをそぞろ歩くだけで十分情感溢れる街の佇まいを堪能できる。