秋の陽3

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「万里子さん、いらっしゃい」
 鈴木さんが立ち上がった。
 良太も会うのは久しぶりだ。
 小野万里子はいわばこの青山プロダクション所属俳優第一号といってもいいだろう、紆余曲折あって、今や大御所俳優山内ひとみの口利きで事務所を開いたばかりの工藤に紹介された。
 当時工藤は制作以外に手を広げるつもりはなかったのだが、元恋人で今や悪友であるひとみにごり押しされて、万里子を引き受けた。
 前の事務所の社長と泥沼不倫で事務所を辞めた万里子は、一時仕事もあまりなく、まだ鈴木さんが入る前で、受付の電話さえ平造が取っていた頃のオフィスで、事務所員のように電話番などをしていたりした。
 まだキー局のプロデューサーだった頃、万里子を起用したこともあり、知らない間柄ではなかったが、会社が船出したばかりでスポンサーや制作関係者の間を駆けずり回った上に万里子のマネジメントまでと、工藤はそれこそ今よりもっと大車輪のように動いていた。
 やがて小田の紹介で入社した菊池が万里子のマネジメントを、さらに同じ頃鈴木さんが入ってくれたため、平造のオフィス業務は終了し、軽井沢に帰った。
 その後下柳の勧めで志村義人を事務所で預かることになった。
 ただし、志村と同じ劇団にいた小杉が志村のマネジメントをやってくれることになったので、工藤の負担がさほど増えたわけではないが、制作関係が忙しくなり、工藤は飽和状態だった。
 その頃の万里子は徐々に仕事も増え、順調に人気も取り戻し始めていた。
 あまりに忙しそうな工藤を見ていた万里子は、個人事務所の設立を提案した。
 二人は話し合い、今後も仕事で協力していくことを前提に万里子は独立し、工藤の手元を離れた。
 それから間もなく工藤が小林千雪の小説『花のふる日は』を映画化することになり、志村と万里子が出演が決まった。
 以来万里子は主に映画を中心に活躍してきた。
 今年も話題作に出演していたはずだ。
「さっき撮了だったんだ。これ、よかったらここに飾って」
 万里子は抱えていた大きな花束を鈴木さんに渡した。
「あらまあ、ステキだこと!」

 


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