秋の陽6

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 えええと、何で、俺、こんなに鮮明に、工藤の顔が目に浮かぶんだ?
「……そのロケって、川崎とかじゃあなかったですよね?」
 良太はちょっと万里子に確認してみた。
「うーん、それがよく覚えてないのよね、回想シーンで、あ、でも映画を見ればわかるかもだけど、ちょっと恥ずかしくてあの頃の自分の演技とか見られないの」
 高校生って可愛いわよね~などと鈴木さんと笑い合っている万里子は、今年三十四歳、青山プロダクションの嘱託カメラマン井上と結婚して、一層演技にも美貌にも磨きがかかったという評判もある。
 演技というより自然体のナチュラル感が年齢を問わず好感を与えているようだ。
「十年前………」
 一方、妙な感覚から抜け出せない良太は、一人呟いた。
 って、俺、野球、当然、やってたよな。
 いや、まさかね~。
 そんな、都合のいい、ってか、偶然、ってか………
「ハハハ………まさかね………」
 良太は窓に向かって首を横に振った。
「透明人間と話してるのか?」
 唐突に後ろから低いドスの聞いた声がした。
「わっ!」
 後ろを振り返った良太はつい喚いた。
「社長、いつの間に帰ってきたんです? お疲れ様です」
 工藤が帰ってきたのも気づかず、良太はああだこうだと思いを巡らせていたのだ。
 フン、と鼻で笑い、工藤は奥の自分のデスクに向かう。
「あら、お疲れ様、工藤さん」
 キッチンにいた鈴木さんと万里子が出てきた。
「来てたのか、万里子」
 鈴木さんがすかさずお波を持ってきてデスクの上に置いた。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
 工藤はブリーフケースを開いてタブレットを取り出した。

 


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