秋の陽7

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「そうだ、ねえ、工藤さん、ほら、千雪さんの最初の映画、あの時、ロケ行ったでしょう? 横浜だっけ? 横須賀? 何か、高校の野球部の傍の」
「川崎だ」
「川崎!?」
 万里子の質問に、即答する工藤と同時に良太が声を上げた。
「マジ?…え?」
「何をきょどってるんだ? 良太」
 一人でまた首を振る良太に、すかさず工藤が突っ込みを入れる。
「え、あ、え、いや、別に………何でも」
 何で?
 良太は自分のデスクに戻り、パソコンのモニターを睨み付けた。
 頭の中はかなりざわついていた。
 というより、脳裏に浮かんでいた男の顔が鮮明になり、勢いよくその時のシーンが蘇った。
 高校二年生の時のよく晴れた秋の放課後のことだ。
 地区大会を控えてその日も練習をしていた。
 良太の大暴投でちょうどネットの破れからボールが外に飛び出してしまった。
 運悪くすぐ近くでロケをしていた一団の方へ転がっていった。
 良太とキャッチャーの肇は慌てて走り寄って、ボールの傍に立つ男に声をかけたのだが。
「こええええ、鬼みたいに睨んでんだぜ? あのオッサン!」
 ようやくボールを返してくれたものの、男に思い切り睨まれた良太はつい声高になった。
「おい、聞こえるぞ、良太」
 肇は良太を窘めながらロケ現場を振り返ったので、良太も思わず振り返ると、まだそのオッサンがこちを睨んでいた。
 キーボードの上の手が止まる。
 ついつい口元がへの字になってしまう。
 ってか何?
 まるで運命のなんちゃらとか?
 ウッソだろお?

 


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