ある日の午後のつぶやき8

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「こっちもだ、奈々」
「はあい」
 谷川の言葉に、奈々は素直に従った。
 途端に、オフィスは静かになった。
 鈴木さんもいつものようにパソコンに向かっている。
 良太だけが、何だかアスカの言葉が胸に引っかかって取れないでいた。
 違うんだよな、アスカさん。
 良太は自分のデスクでパソコンの画面を見つめながら、心の中で呟いた。
 違うんだ、俺と工藤さんは。
 沢村と佐々木さんみたいな、恋人とかそんなんじゃないし。
 強いて言えば、アーサー王と円卓の騎士とか?
 いやいや、俺の場合どっちかっていうと、工藤さんの嫌いなヤクザとかの、昔の映画の中に出てきたみたいな、オヤジに一生ついていきますってな舎弟かな?
 もしか、ちゆきさんが生きていたら、工藤さんも結婚とかしてたのかな。
 いやいや、たらればはナシ。
 
 いいんだ、俺は。
 工藤さん、あんたの背中について行くって決めたんだから。

 ネットの天気予報は夜半から雨になっていた。
 いよいよ梅雨入り間近かな。
 NBCの記念ドラマ関連で制作会社とのスケジュール調整が難航し、鈴木さんもとっくに帰ったオフィスで、あちこちに電話をかけていた良太は、ほぼ何とかやりくりできたところで、一つため息をついた。
「やりくりできた、じゃねーよな。広中制作さんにかなりごり押ししちゃったもんな。ったく、何か俺、工藤が取り付いたんじゃないよな」
 良太は自己嫌悪に頭をかきむしる。
 と、ふいに、オフィスのドアが開いた。
「何かあったのか?」
 今夜は接待と聞いていたので予想外の工藤の登場に、クシャっとした頭のまま良太は慌てて「お帰りなさい」と言った。


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