昨年からの不安定なアメリカ経済の余波と、若者のテレビ離れが懸念され、また視聴率の低下や経費削減のため昨今二時間ドラマなどの枠が激減し、下請けや孫請けの仕事を請け負っていた、青山プロダクションでも古い付き合いの制作会社が倒産、その社長が自死するという事態となった。
当時、工藤は青山プロと関わりのある青息吐息の会社に少しでも仕事を回そうと、やっきになって仕事を入れた。
その一つが頼み込まれてプロデューサーを引き受けた、ミタエンタープライズのアイドル俳優本谷和正を主演に持ってきた、いつもなら断っていただろうドラマだった。
工藤が本谷を怒鳴りつけたことが功を奏したといえるのか、本谷は人気があがり、今ではドラマだけでなくCMの本数も増えている。
『カラスの城』はそのドラマを受けた頃同時に受けたドラマで、こちらは警察組織や社会にメスを入れた内容で人気の小説家上杉耀原作で、政治家と癒着した警察内部の不正を暴こうとする刑事が主人公の物語だ。
来春二週に渡って放映予定となっている。
テレビ局の制作陣も力が入っていて、特に工藤の先輩格になるチーフプロデューサー紺野は工藤が局を辞めてからもちょくちょく声をかけてくれる、有難い存在である。
工藤の出自を気にしないのは鴻池も同じだが、紺野は竹を割ったような硬派だ。
タイミングよく、『大いなる旅人』の撮影は一週間後再開されることになり、今日明日はドラマの打ち合わせを除けば工藤としては久々のオフでもあった。
夕方五時頃、オフィスのドアを開けると、鈴木さんと良太が、お帰りなさい、と工藤を出迎えた。
良太は、弁当を食べてから『パワスポ』の打ち合わせに出向き、ついさっき戻ってきたところだった。
「変わったことはないか」
「順調です。今のところ」
いつものやり取りのあと、工藤はキャリーケースごと奥のデスクに行くと、座ってノートパソコンを立ち上げた。
「お疲れ様です」
鈴木さんがコーヒーを工藤のデスクに置いた。
「すみません。あ、鈴木さん、今年も夏休み三日しか取られてないし、今月あたりまとめて取られたらいかがですか?」
「ありがとうございます。そうですね、またその時はよろしくお願いします」
鈴木さんに対して、工藤が声を上げたりしたことは、良太がこの会社に入ってから一度もないし、それに対し方も丁寧だ。
まあ、鈴木さんには大抵みんなそんな感じになるよな。
「鈴木さん、今夜は何か予定がありますか? よろしかったら良太と一緒に食事でも」
工藤の提案に、鈴木さんは振り返った。
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