幻月22

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「ええか、さっき工藤さんがお前に連絡せずに俺に連絡してきたんは俺がこういう事件に慣れとるとかやない。お前が絶対やったらあかんことは、お前が工藤さんにとって弱点やて知れることや」
 良太は驚いた。
 いつぞや、Tと呼ばれる男、波多野にもそう釘を刺されたのだ。
「万が一お前を盾にされたら、工藤さんは身動きがとれんようになる」
 良太は背筋を冷たいものが通って行ったかのような震えを感じた。
「ひょっとしたら、あの人ももう既に動いてるか知れん。とにかく、あっちに関しては良太、こっちから何かしようとか思わんこっちゃ」
「………わかりました」
 千雪は良太に念を押すと、またそそくさとオフィスを出て行った。
 そのことを言うためにわざわざ千雪は戻ってきたのだ。
 千雪は波多野については知らないようだが、波多野の立ち位置は千雪の推測通りだろう。
 実は仕事を隠れ蓑に、波多野にコンタクトを取ろうと、良太は密かに考えていた。
 それを千雪はとっくに懸念していたらしい。
 CM制作のことでとか何とか、理由をでっちあげて、アポイントを取ればと。
 老舗の電機メーカー『MEC電機』広報部長、それが波多野の表の肩書だ。
 今考えると、この肩書も工藤と顔を合わせても何ら不思議のないだろう相手として用意したのではないか。
 小笠原のCF撮影の立ち会いで、一度仕事上でも良太は顔を合わせたことがあった。
 だが、千雪の言うように、今こちらから波多野に近づくのは双方にとってまずいことになりかねない。
 特にこんな時だからこそ。
 確かにもし裏であっちの輩が関係しているとしたら、とっくに波多野は動いているかもしれない。
 それに、あちらの関係でなくても、波多野は動くような気がする。
 とにかく明日。
 工藤に会いに行く。
 工藤の代わりに動くとなると、京都も行かなければならない。
 今、その移動の時間さえも惜しい気がする。 
 良太は前にも増して早いキータッチで、資料作成を急いだ。

 


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