幻月25

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 平造は寡黙にただ、皆にお茶を入れたりと動いていたが、何かしていないと落ち着かないのだろう、裏庭の手入れをすると言って出て行った。
 そういえば、平造さんは刑務所に入っていた経験があるんだっけ。
 工藤に以前聞いたことがあるが、平造が罪を犯したわけではなく、組長か誰かの身代わりだったと、工藤はそのことに対して憤りを持っていたようだ。
 何も罪を犯したわけでもないのに、何年も刑務所で暮らし、出てきてからはひたすら工藤の面倒を見ていた。
 曾祖父が亡くなる時に、密かに平造を会わせた娘の富貴子は、前科ありとなっているが、実際は平造は真面目な男で、身代わりになっただけだと伝えて曽祖父の信用を得て、工藤を平造に託したらしい。
 そこのところは詳しくは聞いてはいない。
 平造や工藤が、ほんのたまにぽつりと、当時のことを漏らすのを良太が耳にしたというだけの話だ。
 深く追求するべきものではないような気がして、話してくれた時に聞くようにはしている。
 その平造の心のうちはいかばかりなものか、良太も慮った。
 平造は実に工藤に忠実に仕えてきた男のようだ。
 前に平造がぎっくり腰をやった時に、良太は工藤に思わず、親みたいなもんじゃないのか、などと生意気なことを言ってしまった。
 だが、実際工藤にとっては親以上の存在ではないかと思うのだ。
 何もできずに手をこまねいていることが平造にとっていかにもどかしいか。
 良太にも痛いほどわかる。
 工藤のことは接見している小田や、いろいろ調べてくれている千雪らにとりあえず任せて、良太には今、工藤が動くはずだった仕事をこなすという使命があった。
 よし、と良太が立ち上がった時、電話が鳴った。
「はい、少しお待ちくださいませ」
 電話を取った鈴木さんが良太に言った。
「『MEC電機』の波多野さんからお電話です」
 それを聞いた良太は一瞬、身を固くした。
 


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