幻月31

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 そして殺された松下美帆の男と思われるのは中堅建築会社社長の友成陽介で、工藤は美帆とは関わりもないこと、さらに千雪が工藤の女だと思い込んで拉致しようとした連中がいて、千雪はそう思い込ませておけと良太に言ったことなどまでを話した。
「なるほど、確かに千雪さんを工藤の女だと思い込ませておくのがベストでしょう。さすが名探偵ですね。あの妙ちきな風貌の裏で彼は得体が知れないところがある」
 得体が知れないのはあんたのことだろう、と良太は心の中で突っ込む。
「あの時、千雪さんを拉致しようとしたのは、若頭の息子を押す芦田組系列の下っ端連中です。芦田組は配下の者だけでなく、金で半グレ集団を動かして何度か工藤さんを襲っています」
「え、何度かって……!」
 いつぞや、工藤が車をいきなり変えた時とか、良太には思い当たる節はあった。
「既に私の手のものに片付けさせてあります。今更あなたが考える必要もないことです」
 ちぇ、そうだろうよ、どうせ俺なんか何もできやしないさ。
「今回、やつらが強硬手段に出たのは、例の撮影中にあなたが倒れたために、工藤さんの顔がネットで拡散したことが発端でしょう」
「え…………?」
 心の中でやさぐれる良太を、波多野はさらに追い詰めるようなことを言う。
「今回はよろめいた本谷のファンが車にぶつかりそうになったところをプロダクションの社員が助けて代わりに自分が倒れた、というような内容だったのでまだよかったのですが、工藤さんがSNS上に現れたのはまずかった」
「どういう………」
「工藤さんは表に出てはいけないんです。表に出るのならむしろ人気俳優にでもなって大々的に顔を知られるような存在であれば、ああいう連中も担ぎ上げようとか思わなかったかもしれませんし、狙われることもなかったかもしれませんが…………」
 そこまで言うと波多野は唇の端に笑みを浮かべた。
「まあ、あの人は演技などできる人ではないですからね。だったら表に出るべきではない。今回、SNS等で拡散された工藤さんを見てみればわかりますが、一目で只者ではないと思わせる威圧感をまき散らしていますからね」
 良太はハッとした。

 


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