幻月33

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 いや、でもあり得ないことじゃないよな。
「とにかく、今は女を殺した真犯人を見つけない限り、工藤さんはまずい状況にあります。もし仮に真犯人を見つけられなかった場合、工藤さんが起訴される前に、すなわち工藤さんが容疑者として名前が出る前に、最終手段を行使します」
「最終手段……って……」
 波多野はぞっとするような笑みを良太に向けた。
「それはあなたが知る必要のないことです」
 淡々とした言葉で波多野は続けた。
「工藤さんは強靭な精神の持ち主ですから、警察の脅しや宥めに屈するようなことはありません。彼は下手をすると中山組長より図太くて度胸がすわっている。別にそういう環境にいるわけでもないから、あの気質は生まれもってのものです。だが、組長の血筋だからとかじゃない、むしろ祖母の富貴子、工藤の血統でしょう」
 それは意外な話だった。
 工藤が中山組長の甥と言われればなるほどと思ってしまうくらいなのだが。
「何しろ駆け落ちまでして組長と一緒になった人ですからね。豪胆で度胸のすわった富貴子さんは旦那の組長を鼓舞させることで組を仕切らせた。平造さんを組長の身代わりにさせたのも富貴子さんらしい。今尚八十を超えて矍鑠と組長の背後に陣取っています」
 波多野は良太をまっすぐ見据えた。
「娘の桜木ちゆきさんが自死したにも拘わらず、警察幹部との癒着のお陰で政治家としては失脚したものの結局大した罪に問われることもなく政界の裏で暗躍している桜木のお陰で、ヤクザと対極にあるように見えて実は警察や政治家を同じ穴のムジナだと忌み嫌っている工藤さんがちょっとやそっとでは何者にも屈することなどないはずだが…………」
 言葉を切った波多野の目を良太はまともに見た。
「前にも申し上げたように、あなたは工藤さんのアキレスだ。あなたに何かあったらSNSでのように素の自分を晒してしまう」
「それって、俺が工藤の傍にいると邪魔だってことですか? だったらいつだって俺は消えてやる!」
 拳を握りしめた良太は波多野を睨み付けた。

 


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