幻月4

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 何がいいと珍しく聞かれたので、良太は、鮨! と迷わず答える。
 フンと笑って、工藤はたまに行く『しのだ』へと足を向けた。
 会社から十分とかからないところにある高級寿司店だ。
 良太は『田園』の北海道ロケや『からくれないに』の撮影の報告をしながら、遠慮なく、エビ、大トロ、イクラ、ツブ貝、ウニ、と平らげていく。
 工藤は時々、口を挟みながら鮨を食べ、ゆっくり冷酒を空けている。
 良太は工藤とこんなのんびりした時間は久しぶりだな、などと思いながら、工藤が注いでくれる冷酒を口にした。
 すし屋を出ると、こちらも久々、前田の店『OLDMAN』に寄った。
 良太が工藤に『お中元』に贈ったロンサカパセンテナリオなるラム酒をようやくあけることにもなった。
 工藤はストレートで味わっている。
「美味しいです」
 前田は良太にはロンサカパでマティーニを作ってくれた。
 良太もロックで飲んでみたいとは思ったものの、せっかくの前田の好意ににっこり笑う。
 どうも前田には実際よりかなり若いと思われているのかもしれない。
 この店では特に工藤はあまりしゃべらない。
 そんな工藤の邪魔はしたくないので、良太も黙ってマティーニを飲む。
 カランという氷の音が響くほど、店内は静かだ。
 音楽もかなり静かに流れているし、一人できている客が多く、寡黙だ。
 女性もいるのだが、やはり一人で、この店の時間を味わっているかのようだ。
 店を出ると会社の七階に上がり、工藤の部屋に行った。
 シャワーを浴びている時から工藤が触れてきて、がくがくする身体のまま良太はベッドに連れていかれた。
 貪り合うように抱き合ったあと、工藤に擦り寄るようにして良太は眠った。
 翌朝コーヒーの香りで良太は目が覚めた。
 珍しく工藤が入れたコーヒーを飲んでから、良太が自分の冷蔵庫にあったサンドイッチを持って来て二人で食べ、ゆっくりとした夏の朝を過ごした。
 工藤は身支度をすると、またエロいキスを落としてから十時前には部屋を出た。
 良太はそれから慌てて自分の部屋に戻り、そそくさと着替えてオフィスに降りて行った。
 いつもと同じ一日が始まるはずだった。

 


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