幻月43

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「せや。気にならんか? 山に埋めた女、とか聞こえたやろ?」
「あ………まさか……」
「なんや、推理小説いうより、三流サスペンスドラマの展開になってきたで」
 千雪は面白そうに言う。
「面白がらないでください」
 こんな時に、と良太は思うのだが。
「せえけど、もうシナリオはできてるで。つまり、店の女の子が何か、出水あたりのことで見ちゃいけないものをみたか、でなきゃそれをネタに出水を恐喝して逆に殺されたと。ほんでそれを見たのがママの松下美帆や」
 小説家は見てきたように話す。
「殺人を見た美帆は出水に口止めされるが、実は美保の男友成陽介は田口といい仲になってて、美帆が邪魔になっている。ママの座を狙っていたチイママ清水美咲も美帆が邪魔で、出水はスポンサーの友成に頼まれて今回の事件を計画する」
「せえけど、何でそこに工藤が出てくるんや」
 千雪の隣に座っていた辻誠がフンと笑う。
「それは多分、こないだのあれじゃないですか。うちのドラマ撮影中に、本谷のファンが溢れそうになって俺がぶっ倒れたところへ、ちょうど工藤が現れた、っていうような動画が、SNSで拡散されたんです」
 辻の疑問に良太が答えた。
「こいつなら、狂暴そうだって顔で、きっとそれを見たんですよ、出水とかが」
「それよか、出水、石尾不動産の元社員やろ? 表向きカタギに見せとるけど島本組系列で、社長の石尾ってインテリヤクザが工藤を手っ取り早く始末しよう思たんやろ。組同士のいさかい絡んどるんやないか」
 ちょっと知っている者なら、やはりすぐ辻のように関連付けて考えるのではないか。
 波多野は何とか、組の抗争から切り離した答えを用意したいようだったが、そううまくいくとは思えない。
 しかし千雪の話した内容が、満更フィクションではないように良太にも思えてきた。
 ドラマなどではそんなシーンもいくらもあるだろうが、実際にもし、山中に女の子の死体が埋まってたりしたら。
 良太はぞわっと背筋が寒くなった。
 それにしても松下美帆といい、そんなに簡単に人を殺したりできるものなんだろうか。
 良太はタブレットでじっと直子の携帯のGPSを追いながら、波多野はやつらのことを知っているのだろうかと思う。
 いや、こっちが出水から石尾に辿り着いたんだ、波多野ならもうとっくに知っているに違いない。
 だったら、何とか直子を助け出してくれないだろうか。
 普段不信心な良太だが、神にもすがる思いで、良太は直子の無事を祈り続けている。
 この際、キリスト様、仏様、波多野様だ!
 ああでもあの人、工藤絡みなら手を出すけど、どうなんだろう。
 胡散臭いよな。
「啓、今どこや」
 男たちの車を追っている啓から辻に電話が入った。
「わかった。気づかれんなや」
 辻は携帯を切ると、「山ン中、入ったて。奥多摩やな」と言った。
「啓のダチが二人合流するらしい。助っ人は一人でもようけおった方がええからな」
 辻の言葉が良太の胸に重く響く。

 


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