幻月45

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「小田先生、わざわざありがとうございます」
 憤慨している小田に、鈴木さんはまだ怒りが収まらないといった声で言った。
「とりあえずどうぞ、せっかくですからお茶を今お持ちします」
 キッチンに向かう鈴木さんを目で追いながら、小田は封と大きく息をついた。
 つい焦ってきてしまったのは、証拠の捏造でもされたらという危惧があったからだ。
 工藤に対しては全くないとは限らないと思えたからだ。
 千雪ではないが、かつて、桜木元議員を政界から追い出した時以来、警察を信用していない。
 結局大した罪に問えなかったのは、明らかに警察内部に桜木と通じている者がいたからだ。
 それは検事の荒木とも同意見だ。
 桜木元議員は表舞台からは消えたがフィクサーとして裏で暗躍し続けていると聞く。
 工藤をおそらく未だに目の敵にしているに違いない。
 全く敵の多いやつだ。
「美味い、鈴木さんの入れるお茶はほんとに美味しいです」
 小田はようやく少し落ち着いたらしい鈴木さんを見て笑った。
 一件和やかなオフィスだが、そのようすを覗きながら、青山プロダクションの様子がただならないことに気づいた者がいた。
「どういうことよ!」
 思わず呟いたのは佐々木オフィスからお遣いを頼まれてやってきた、池山直子だった。
 車から降りようとした直子は、刑事らしい男が二人、オフィスから降りてきたのに気づいた。
「工藤のやつ、うまいことかくしてやがるに違いない!」
「何しろ、あの中山組長の甥ってくらいだからな」
「でも、あれだけはっきりした証拠があるんだし、確実にムショ送りにしてやりますよ」
 刑事たちは誰もいないと思ったのだろう、何となく気になってパワーウインドウを降ろした直子に聞かれているとも思わず、駐車場の前でそんなことを話してから立ち去った。

 


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