幻月49

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「パリだと。来週まで。あいつならはまり役だと思ったんだが」
 携帯をもてあそびながら藤堂は言い放った。
「そんなことだと思った。ことは急を要するし、今晩でもあたし行ってみる」
「ちょと待った! 直ちゃん、これは現実で、ドラマじゃないんだよ?」
 立ち上がった直子を藤堂は焦って引き留めた。
「直ちゃんだけ危険な目に合わせるわけにいかない。俺も同行しよう」
「だって仕事あるでしょ」
「いやあ、まあ、うちには有能な社員がいるからね」
 今頃、三浦がくしゃみをしているかもしれないと思いながら藤堂は言った。
「で、作戦は?」
「別に、バイトしたいって言えば入れてくれるでしょ。クライアントのところに行く時用にオフィスにスーツも常備してるんだ」
 あっけらかんという直子は、確かに度胸はいいのだが。
「なるほど」
「でも絶対佐々木ちゃんには内緒だからね!」
 直子は断言した。
「いや、しかし、やっぱり心配だ」
「大丈夫だって。たかがクラブでしょ?」
 藤堂は渋い表情を崩せなかったが、直子をこのまま放ってはおけなかった。
 店を出るとすぐ、直子は携帯でクラブ『ベア』に電話を入れた。
「はい。わかりました、六時半ですね。よろしくお願いします」
 携帯を切ると直子は「OKだって」とにっこり笑う。
「ああ、しかし、大丈夫かなあ。何かあったら佐々木さんに顔向けできないぞ」
 藤堂は大仰にため息をつく。

 


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