幻月6

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「それでもやはりね。社員を募集しても事実を話すと大概回れ右で帰っていくんで、募集するのもやめましたから、万年人手不足なんです」
「それと結婚とはまた別だろう。まあ、今はこんなことを言うとハラスメントとか言われるようだが、俺はお前が心配なんだよ。そういう相手はいるんだろう? 今度紹介しろよ」
「残念ながら。それより奥様はお元気ですか? 浮いた話一つもなかった紺野さんが、突然若い売れっ子の美人女優を射止めて、みんなに羨ましがられて」
 紺野は笑った。
「ああ。何とかやってるよ。息子は今、十歳になった」
「そうですか。年を取るはずですね、俺も」
 工藤の携帯が鳴ったのはその時だ。
「失礼」
 工藤は店を出て、軒先で電話にでた。
「工藤だが」
 相手は知らない男だった。
「すみません、下柳さんのスタッフですが、下柳さんから伝言を預かってまして」
「伝言?」
「実は下柳さん、今外に出ていて携帯をどこかに忘れたとかで、今夜の待ち合わせの場所を変えたいって、スタジオの受付に電話をしてきたみたいで、受付の子が工藤さんに伝えてほしいと」
 八時にバー『ブラン』で下柳と待ち合わせていたのだが。
「どこだ?」
「セントラルハイアットホテルの四階の、スマイルってことです。時間は八時で」
「わかった」
 工藤がそれ以上何か言う前に携帯は切れてしまった。
 あいつはやたら携帯やらなにやらどこかに置き忘れる。

 


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