幻月81

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 今はさほど問題なく思えたとしても、何かのはずみでフラッシュバックするということもある。
「今のところ大丈夫だと思うよ」
 良太は千雪の部屋まで直子に付き添ってきていた。
 医師が帰った後、京助が入れてくれた珈琲を一口飲んでから、直子は言った。
「本当にご心配おかけしました」
 ペコリと、そこに居合わせた京助、千雪、良太に直子は頭を下げた。
「うん、まあ、怖かったけど、前に付き合ってた彼氏に別れ話持ちかけた時、ナイフ振り回されて怪我したことがあって、金的かまして逃げたけど、そん時の方が正直怖かったよ」
 意外な過去をサラリと口にする直子に、三人の男たちは一様に黙った。
「そっか、まあ、でも、何かあったら、俺に話して」
 しばらくして良太は言った。
「話さないでしまっておくとよくないと思うし」
「わかった。でも、なんかさ、あたしより藤堂さんの方が責任感じちゃってて心配で」
 頬杖をつきながら直子は眉を顰めた。
「わかった。とにかく、じゃあ、今度藤堂さんも一緒にどこかで逢おう」
 サスペンスドラマなどでは、最後に真犯人が捕まって、危ない目にあった誰かが助け出されて、その後、幸せに暮らしてます、めでたしめでたし、なんてラストが多い。
 ドラマだからやはりラスト幸せに暮らしてますにしておいた方が、視聴者に重い何かを残さずに済むし、実際自分は危ない目にはあっていないから、ああ面白かったと言ってしまえる。
 スカッとしてもらえれば、ドラマの制作陣もそれでよし、ということにもなるのだが。
 もし実際に危ない目にあったりしたら、それこそ折に触れて怖かった時のことがフラッシュバックして、PTSDを発症する危険性もあるわけで。
 今回は直子を助け出すことができたが、万が一ということもなかったとは言い切れない。
 直子を店に潜り込ませたことですら悔やんでいる藤堂が、もし、万が一直子に何かあったりしたら、もうこれまでの藤堂の人生を同じように歩けるかどうか、保証はできないのだ。
 現実はドラマのように簡単にスカッとは行かない。

 


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