幻月84

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 その記事を読んでも大抵、へえ、で終わる程度だし、芦屋組系列でもことが麻薬関係ではトバッチリを避けて誰も何も言わないし、インテリヤクザで偉ぶっていたくせにドジったもんだ、くらいしか思わなかっただろう。
 ただ、その記事を見つけて背中に戦慄を覚えたのは良太だった。
「これって、波多野の仕業だよな、きっと」
 波多野の言った、石尾の始末、とはこういうことだったのだ、と良太はすぐわかったが、波多野と結びつけるものなど何もないだろう。
 おそらく工藤もその記事を読んだに違いない。
「波多野のことなんかお前が思い悩むようなことじゃない。忘れろ」
 そう工藤が言ったのは工藤が無罪放免になった夜のことだ。
 その日、小田から連絡を受けた良太は飛んで行って警察署を出る工藤を出迎えた。
 小田とはその場で別れ、良太は一週間以上ぶりに顔を見た工藤への嬉しさを何とか抑え込み、「どうします? 腹ごしらえしてからオフィス戻りますか?」とおそらく疲れているだろう後部座席の工藤に尋ねた。
「いや、食事はきっちり取っている。東洋商事へ行ってくれ」
「わかりました」
 ったくもう仕事かよ。
 もっとやつれたりしているだろうという良太の思惑に反して、何ら変わりない今まで通りの工藤である。
 というより、むしろすっかり疲れを癒したように健康そうにも見える。
「やることがないから、毎日食ってストレッチしてたくらいだからな」
 どちらかというと、良太の方が色々考えあぐねて眠れない夜もあり、食事もあまり喉を通らなかったりで痩せたかも知れない。
「お前も来い」
 車で待って居ようと思った良太に工藤は言った。
 訪問先は大企業本社ビルが建ち並ぶ丸の内である。
 受付で工藤が名乗ると、良太ともども社長室のある上層階行きのエレベーターに案内される。
 

 


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