幻月85

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「お待たせしました」
 ややあって颯爽と現れた綾小路紫紀はにこやかに自ら社長室に案内した。
「こちらへどうぞ」
 紫紀は工藤と良太にお茶が運ばれると後ろに控えていた秘書の野坂を下がらせた。
「今回はとんだ災難でしたね。無事にご帰還されて何よりです」
「いや、京助さんや千雪さんたちのお陰です。感謝します」
「千雪くんなんか、ことあるごとに警察の無能さを罵ってましたよ。私も、思い込むとてこでも動かない縦割りあの組織には結構昔から呆れてますけどね。以前は千雪くんさえ容疑者にしてくれましたし」
 千雪が容疑者にされた話はチラッと聞いただけで、良太は詳しくは知らなかった。
 そういういきさつがあったのなら、紫紀までもが警察に対して言葉上でもきつくなることもうなずける。
 今度千雪さんに事件のことちゃんと聞いてみよう。
 それにしても紫紀は工藤の件を京助から話を聞いたのだろうと良太は思ったが、どうして工藤が最初に紫紀を訪ねたのだろうと訝しんだ。
「しかし、小田弁護士から今回の事件の件で、スポンサーを降りた方がいいかも知れないと窺った時は驚きました」
 良太は驚いた。
 工藤はそんなことまで考えていたのだ。
 他のスポンサーに対しても同じように対応したのだろうか。
「工藤さんを信頼してますから、そのような気遣いはご無用にと申し上げましたが、私は京助にレンジローバーを貸してもっと早く真犯人を突き止めろとせっつくくらいしかご協力できなくて逆に申し訳ありませんでした」
「とんでもない。お心遣いありがとうございました」
 え、あのレンジローバー、京助のじゃなくて、紫紀さんのだったのか。
 俺、コンビニに行くのに使っちゃったぞ。
 良太はカッコいい車だからと運転してみたくて、谷川さんの乗ってきた社用車ではなく、レンジローバーのキーを京助に借りたことを思い出した。
「他のスポンサーにも、小田さん経由で紫紀さんと同じように伝えたんですか?」
 東洋商事を出て青山プロダクションに向かう車の中で、良太は工藤に尋ねた。
「鴻池さんとか」

 


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