幻月88

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「俺なんかついでにご飯にありつけて、ラッキーってとこだよな」
 冷凍庫には、冷凍しても美味しいだろうおかずの袋がいくつか作り置きしてあった。
「平さん、さすが」
 口数も少なく、工藤が帰るまでは部屋を掃除したり、裏庭の草むしりをしたりしてじっと待っていた平造だが、やはり一番工藤のことをわかっていて、気がかりだったろうと、良太は平造の胸の内を慮る。
「そういえば、まだ俺、千雪さんとかにお礼とか言ってねぇや」
 今日は工藤が戻ってくることで手一杯で、それ以外に考えることもできなかった。
 冷蔵庫の前でぼんやりしていると、ドアが開いた。
「あ、ご飯、食べますか?」
「ああ。風呂入ってから」
「じゃあ、上がったらあっためますね」
 そうだよな、ゆっくり風呂くらい入りたいよな。
 良太は留置場って居心地悪いだろうし、風呂とかトイレとかどうすんだろう、と考えて、オフィスにたまたまやってきた平造に聞いたことがある。
「トイレは中にあるが、他に人がいりゃ使いづらいな。風呂も三日にいっぺんくらいだ」
 それを聞いていたので、工藤もかなりうらぶれているのではと思ったのだが、案外清潔そうだったし、釈放が決まった時に小田に衣類などを持って行ってもらったので、スーツもビシッと髪も撫でつけてほぼいつもの工藤だった。
 バスローブで楽に食事ができるのも容疑が晴れたからこそだ。
 良太は未だに工藤に濡れ衣を着せたやつらのことを考えると腸が煮えくり返る思いだが、千雪やみんなのお陰でこうして普通にそこにいる工藤を見ると、帰ってきたんだ、と再認識する。
 よかった。
 ほんとに。
 しかしまた工藤を犯人扱いした警察の態度を思い出すと、良太はまた怒りがふつふつと沸いてくるのだ。
 申し訳ありませんでしたくらい、しっかり言ったらどうだよ!
 実際、工藤を見送って頭を下げたのは、捜査一課の中で工藤を早々と起訴するのに異議を唱えた二人、渋谷と橋本だけだった。

 


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