幻月92

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 いや、俺もか。
 もう良太に会えなくなったらと、その考えには胸がキリキリと痛んだ。
 良太が今こうして腕にいることに安堵している。
 工藤は自嘲した。
「……ほんとに、千雪さん……」
 潤んだ目を開けた良太が言った。
「………警察に対してえらい剣幕だった…。出だしからもう警察よりずっと先を行ってた」
「また、事件の話か」
「あんたが冤罪ってことも許せなかったみたいで、それに千雪さん、あの時、いつだったか赤坂の料亭で俺らと千雪さん三人で逢った時、助けてくれた波多野さんのこと、あんたのボディガードだろって気づいてる」
 良太は工藤の目をじっと見つめてつづけた。
「千雪さんも辻って千雪さんの同級生もあんたが冤罪になった理由が抗争にあるって、勘づいてたよ」
「フン、名探偵はお見通しか?」
 工藤は茶化した。
「あんたが話したんじゃないんだ?」
「波多野のことを知っているのはお前だけだ」
 フーン、と良太は斜交いに工藤をちょっと睨む。
「でさ、その千雪さんが容疑者にされた時、あんたがアリバイを証明したわけ?」
「だったかな。どうでもいいだろ、そんな昔の話」
 いつまでもそこに引っかかっている良太の唇を塞ぐ。
「……っっ! ……って、今ごまかそうとしただろ?」
「留置場にいる間、暇過ぎて、早いとこお前にありつきたかったんだよ」
「うっそつけ!」
「ウソなもんか、お前もそうだろ?」
 絡みついている工藤の脚が良太を煽り立てる。

 


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