幻月95

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 良太はくだらない妄想に顔を思わずゆがめた。
「どうかしたの? 良太ちゃん、お腹でもこわした?」
 鈴木さんに心配されて、はたとそこがオフィスだったことを思い出した良太は咳払いでごまかした。
「え、あ、いや、ちょっと喉が……お茶入れてきます」
 そそくさとキッチンに立つと、鈴木さんの分もお茶を入れる。
「そうそう、前に、娘と京都に行く話したでしょ? 社長が今度の週末、新幹線とホテルを取ってくだすったの。金曜日、午後からお休みするけど、良太ちゃん、一人で大丈夫?」
 鈴木さんのデスクにお茶を置いた良太に、鈴木さんが目を輝かせながら言った。
「え、よかったですね! 全然大丈夫ですから、ここは」
「もう、それがホテルも五つ星のスイートなのよ。福利厚生っていっても何だか申し訳なくって」
「いやいや、その程度じゃ足りないくらいって、工藤さん思ってますって、鈴木さんにはほんとにお世話になってるからって言ってましたよ」
「別に大したことしてるわけじゃないのに、ほんとに嬉しくて」
 鈴木さんには工藤、心底ありがたいって思ってるみたいだからな。
 平さん孝行もしたみたいだし。
 毎年この時期墓参りをする平造に二、三日、釣りができる温泉付きのホテルを用意してやったらしい。
 何分、平造の場合は背中の彫り物のせいで共同浴場は入れないため、もちろん、風呂付スイートだ。
 ま、そのくらい当然だよな。
 おー、いい天気だ。
 あーあ、来週からまた忙しいけど、工藤とはすれ違いが多いし。
「でもまあ、帰ってくるからな」
 良太は秋晴れの空を見上げて、そんなことを口にした。

 
 おわり


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