上里サービスエリアは上信越自動車道に入る少し手前にあった。
「あ、もう、走行車線に入った方がいいんじゃないですか?」
関越自動車道を走る車の助手席で、広瀬良太は案内標識を見ると、ハンドルを握る工藤に言った。
「いちいちうるさいぞ。軽井沢なんか何度走ったと思ってる」
イラつきながら工藤は不承不承走行車線に入った。
工藤高広、東京は乃木坂にオフィスビルを持つ青山プロダクション社長である。
テレビ番組、映画等の企画制作及びタレントの育成、プロモーションが主な事業内容で、規模は小さいが、不況真っ只中のご時世にあって右肩上がりの業績を挙げている。
良太の名刺には一応社長秘書兼プロデューサーという肩書があるが、諸事情により万年人手不足にあるこの会社にあっては、一つや二つの肩書は当たり前、新入社員もほぼ皆無なので募集すらやめて久しい。
のだが、つい先日、本人の事情であくまでもバイト待遇ではあるが、一人社員が増えるという喜ばしい出来事があったばかりだ。
「だって、ずっと追い越し車線すっ飛ばして、何台追いぬけば気が済むんですか」
良太も負けじと言い返す。
実際、自分がハンドルを握ってない時というのは、隣で雪がチラつく高速道路をやたらかっ飛ばす運転をされたりした日には、つい、何だかだと口を出したくなるものだ。
「大体軽井沢くんだり、二時間ちょいのところをわざわざ休憩なんかいらんだろうが」
工藤が良太を乗せて冬の高速道路をベンツを飛ばして軽井沢に向っているのは、ワーカホリックなこの男にしては非常に珍しいのだが、仕事でなく遊びでスキー合宿に参加するためだった。
サービスエリアへ一キロの案内を通り過ぎると工藤はウインカーを出してようやくをスピードを緩めた。
「責任者としてみんなの状況をちゃんと把握しておかないでどうするんですか」
工藤の面倒臭そうな言い方に対して、良太もついそんな言い方になってしまう。
なるべくショップに近いところまで走ると、工藤は車を停めた。
すると車が入ってくるのを待っていたらしい森村がすぐに車を降り立った二人を見つけて走り寄った。
先日会社に入った、よく気が利くバイトくんである。
「お疲れ様です。早かったですね。俺らも五分くらい前に入ったばっかなんですよ」
「お疲れ様。みんなは?」
良太が聞くと、「こちらです」と先に立って歩き出した。
「おお、来た来た!」
「こっちこっち」
青山プロダクション所属俳優小笠原と横須賀にある中古自動車販売店店長且つ用心棒から引き受ける『猫の手』軍団メンバー辻が森村の後ろからカフェテリアに入ってきた仏頂面の工藤とちょっと疲れた表情の良太を見て手を振った。
「やだ、どうしたの? 良太、随分やつれた顔してない?」
コーヒーを飲んでいたアスカが目ざとく良太を見て聞いた。
こちらも青山プロダクション俳優で隣にはそのマネージャー秋山がいた。
「工藤さん、冬の高速をめっちゃ飛ばすし………」
はあ、と良太はため息を吐く。
「何だ、いつものことじゃない」
軽くいなされて、良太は情けなく笑う。
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