花さそう3

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 もともとこの別荘は、東洋グループ次期CEOと目される太っ腹な東洋商事社長綾小路紫紀が東洋グループ社員の福利厚生のために古い屋敷にリノベーションを施し、綾小路家のイベントがある日以外なら、予約制で掃除等は各々の責任で足代と食事は自分持ちだが利用料無料で貸し出しており、部屋数もちょっとしたホテル並みだ。
 紫紀の弟でT大法医学教室の准教授である京助がスキー合宿の責任者だが、紫紀の妻小夜子の従弟で推理作家としても知られ、同じくT大法学教室に助教として籍を置く小林千雪から仕事上付き合いのある良太に誘いが回ってきてその友人知人へと広まり、昨年も大賑わいだった。
 いい年してみんなで仲良しこよしで合宿とかできるか、などと思っていた工藤が参加することになったのは、前々から良太に秋波を送っている同年配の宇都宮が参加すると聞いたからだ。
 何を隠そう、工藤と良太とは社長と部下というだけでなく、二人のいつもの言い争いなどは痴話喧嘩かとみなされる、知っている者は知っているという間柄だ。
「平造の誕生会の手はずはどうなっている?」
 仕事ならばいざ知らず、目的が純粋に遊びとなると、何やら落ち着かない根っからの仕事人工藤は、さっきから携帯でいろいろと確認している良太に尋ねた。
「明日の晩五時頃、みんなが『カンパネッラ』に先にスタンバって、俺が適当な理由をつけて平さんを連れていくサプライズってことになってます」
 やはり軽井沢にある工藤家の別荘を管理しているのが、曽祖父母亡き後、工藤を育てたと言っても過言ではない大塚平造で、明日はちょうど平造の誕生日だということで、良太が食事会を提案したのだ。
 それも工藤にとってはスキー合宿だけが目的ではないという名目ができたわけだが、仕事の余波でオフになったことはあるものの、そもそも自分からちゃんとした休暇を取ること自体、起業以来走りに走ってきた工藤にはかなり珍しいことだった。
 それというのも、頑なな工藤が心を動かさざるを得ない出来事が起きた。
 横浜の病院で外科部長をしている大学の同期石川には毎年検診を受けろと煩く言われて、京都から戻った時に時間が空いたので受けたところ再検査となった。
結果今回は無罪放免となったものの、生検すると言われた時のことだ。
「いざとなったら、お前が治してくれるんだろうな」
 よもやそんな科白が自分の口から出るとは思ってもみなかった。
 ずっと一人で生きてきた。
 いつどこで野垂れ死のうが、己の勝手だと。
 ところがどうだ。
 まだ生きたいと思っている自分が驚きだった。
 理由は、石川に指摘されるまでもなく、良太だ。
 

 


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