花さそう4

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 良太の傍らでまだ生きたいらしい自分の思いもさることながら、再検査の件で良太に寝込まれた上に泣かれた日には、さすがの工藤もとりあえずしばらくは、映画の編集作業も今のところ順調だし、仕事漬けのスケジュールを緩めるか、となったのだ。
「ちょっと工藤さん、聞いてます?」
 顔をあげると眉を顰めた良太の顔があった。
 思わず面接に来た時の痩せ細った良太の子供っぽい顔が頭に浮かび、工藤は思わず失笑した。
「何がおかしいんですか」
 良太はムッとする。
「杉田さんは呼んだのか?」
 工藤は笑みを張り付けたまま尋ねた。
「もちろん。絶対参加しますってことで、特大のバースデイケーキを用意してくださるそうです。吉川さん、だから、食事のデザートはかなり控えめにするって言ってました」
 カンパネッラのオーナーシェフ吉川は、店が工藤の別荘と近いこともあって、まだ吉川がやんちゃをしていた頃から平造とは顔見知りだ。
 最近は平造が栽培しているイタリア野菜を店で利用したりと行き来している上、和洋中料理の腕はプロはだしの平造とは、料理の話になると尽きないらしい。
「やっぱり鈴木さんも来られたらよかったのにな」
 ぼそっと口にする良太を見て、「また来年は、平造を乃木坂に呼べばいいだろう」と工藤は言った。
「そうですよね」
 途端に良太の表情が明るくなる。
「もう出ないと、夕飯に間に合わなくなる」
 携帯を確認した良太は立ち上がると、「皆さん、そろそろ出発します」と声を張り上げた。
「はーい、添乗員さん」
 ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる小笠原に「誰が添乗員だよ!」と突っ込む良太を見て、美亜が笑う。
 辻、加藤、研二、それに宇都宮が先にカフェテリアを出ていく。
 良太は、みんなが出るのをチェックしていたが、通りすがりに宇都宮が、「大丈夫? 疲れてっぽいけど」と声をかけた。
「あ、はい、大丈夫です」
 笑って答えた良太だが、宇都宮がいつも周りに気を配っていることを仕事の合間にわかってきた。
 最後に森村と牧に続いて、工藤と良太がカフェテリアを出て駐車場へと向かう。
 ほぼスキー合宿の面々の車が辻のチェロキーの後に続いて本線へ出た。
 運転しましょうかという良太の申し出を固辞して、工藤がハンドルを握ったが、今度は皆の車の最後尾に着いたので、思うようにスピードが出せず、イラついた。
「何だってこんなトロトロ走るんだ」
 せいぜい八十キロで走行車線を走っている。
「辻さん、他の車のためを思って走ってくれてるんですよ。こんな雪が降ってる高速とか、下手にスピード出して事故ったらどうするんですか。小笠原だって美亜さん乗っけてるから、わりと緊張してるんじゃないですか?」
 フン、と工藤は鼻で笑い、仕方なく工藤にしてみればトロトロと走るしかなかった。


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