良太は一つ溜息をついて、「いいじゃないですか、たまにはこういうのも」と工藤を窘めながら、玄関に置いた荷物の中から工藤と自分のキャリーケースを持って階段を上がる。
「貸せ」
工藤は自分のキャリーケースを良太から受け取ると、たったか階段を上がる。
土産や差し入れの酒やスイーツ類は、既に森村が大たちに渡してくれていた。
森村がいてくれるので、良太の仕事が若干減っているのは確かだ。
森村は部屋に自分の荷物を置いてから、辻と一緒にまだ車に積んである平造へのプレゼントをカンパネッラに持って行くらしい。
「あ、モリー、俺も吉川さんに挨拶行くから、行く時、呼んで」
「Copy!」
良太が声をかけると、森村は藤堂と同室になったようで、二人で和みながら部屋へと向かった。
「おう、お前か」
工藤はドアを開けて既に部屋の中にいた男を見て言った。
「よろしゅうに」
少し笑みを浮かべて会釈をしたのは研二だった。
研二はドア側のベッドに腰を下ろし、自分の荷物の中からスウエットを取り出して着替え始めた。
部屋はちょっとしたホテルのツインルーム並みで十四畳ほどはあろうか、バスルームも完備だ。
窓際にソファセット、壁際には鏡とワークテーブル、冷蔵庫もあり、クローゼットも二人分充分に入る大きさだ。
リノベーションしたというから、家具調度もその時に誂えたのだろうがアンティーク調のブランドものでこの屋敷に合わせた重厚感がある。
壁にかかっているのもシャガールのリトグラフで本物だろう。
ただしテレビや電話などはないが、携帯やタブレットがあれば十分だ。
工藤は一通り部屋を眺めると、コートやスーツを脱いでクローゼットに掛けた。
「俺、風呂掃除に行ってきます」
スウエットに着替えた研二がドアを開けながら言った。
「待て、さっき食事も自分たちで作ると言っていたが、誰がやってるんだ?」
大の説明したようなシステムで動いているのなら、誰かがこの大人数の食事を作っているのだと、工藤は今さらながらに気づいた。
「ああ、午後から京助さんと京助さんとこにいる洋子さんが中心になって作ったはるみたいで、てったおうかて大くんに聞いたら、もうほとんど準備できとおるからええて」
それを聞くと、何もせずにただ食いするというのも工藤としては京助に借りを作るようで嫌だった。
「そうか。風呂掃除、俺も行こう」
「え?」
あまり感情を表に出さない研二がちょっと驚いた顔をした。
工藤はジャージなど持って来ていないし、シャツとズボンのまま部屋を出る。
「それでやらはるんですか? 汚れますよ」
「どうせ洗濯だ。まくり上げればいいだろう。着替えはある」
「はあ……」
研二はそれ以上何も言わなかったが、廊下に出たところで、隣の部屋から出てきた良太と出くわした。
「え、工藤さん、どこか行くんですか?」
「研二が風呂掃除するってから」
すると良太はまさか工藤がというよりシャツとズボンのままの工藤に焦った声で「ちょ、待ってください! その恰好で風呂掃除やるんですか?」と聞き正した。
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