「裾をまくればいいだろう」
「え、ちょ、即洗濯ですよ、それ、スーツのズボンじゃないですか!」
「カンパネッラだろ? とっとと行ってこい」
慌てる良太にしれっと命じると、工藤は研二と風呂へと向かう。
「どうしたの?」
騒いでいる良太に、宇都宮が出てきて聞いた。
「いや、それが、工藤さんが風呂掃除、あの恰好でやるって、全くもう!」
「あらら……」
「そんなことあの人がするとは思わないじゃないですか! スウエットなんか持って来てないし」
良太はイライラしながら口走った。
「まあまあ。なかなか言って聞くような人じゃないっしょ」
「はあ……。ああ、もう、時間が……行ってきます!」
良太は慌てて廊下を走り階段を駆け下りた。
風呂掃除は研二と工藤が一番乗りだった。
研二が掃除用具の入っているキャビネットから長いブラシを取り出して工藤に一本を渡すと、二人で既に湯が抜かれている広い湯船に降りて、ブラシをかけ始めた。
ホテルや旅館並みに広い湯船でしかも温泉が引いてあるとは。
これも福利厚生用にリノベーションしたのかも知れない。
全く紫紀のやることは何かにつけ徹底しているな。
工藤はブラシを動かしながら密かに感心せざるを得ない。
部屋も二十以上はありそうだ。
おそらく、廊下続きの母屋は綾小路家が使っているのだろう。
その時入り口の方で声がして、何人かが入ってきた。
「うお! 大将が風呂掃除やっとる!」
工藤を見て叫んだのは辻だ。
その後から加藤や藤堂、悠がやってきた。
「ありゃりゃ、工藤さん、そんな恰好で汚れますよ?」
ズボンの裾やシャツをまくり上げただけでブラシをかけている工藤を見咎めて藤堂が言った。
藤堂も二度目の参加でシステムをわかっていてスウエットの上下だ。
「今更だ」
工藤はお構いなしにブラシを動かした。
「こっちは人数足りてるみたいだから、小さい方行ってきますね」
藤堂がそう言うと、黙って悠も一緒に出ていった。
風呂は大小あって、女性の人数が少ないので小さい方は女性が使うことになっているのだが、それでもそこそこ湯舟は広い。
「おや、ひょっとして、ピアニストの桐島恵美さんではありませんか?」
ブラシを持って入って行くなり、女性二人のうちの一人を目ざとく認めて藤堂が聞いた。
「はい、そうですけど、すごいよくご存じですね」
ジャージの上下で長い髪を後ろでまとめてブラシをかけていた女性が顔を上げた。
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