花を追い45

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「親の財はね、俺のものじゃないからね、やはりしっかり仕事をしてご飯を食べるというのが当たり前のことだ、うん」
「はあ」
 いかにもな正論だ。
それにしても藤堂や河崎やそれに工藤なども、実に今仕事をしなければ明日はご飯が食べられないくらいな様相でキリキリ仕事をして、社長です、などとふんぞり返ってゴルフやら夜の接待やらに興じている連中とは一線を画している。
「藤堂さんら英報堂にいてはった頃は、恵まれたエリートなんかに負けるもんか根性で、みんな頑張ってましたけどね」
 佐々木が言うと、藤堂は苦笑いする。
「誰しも人に対する羨望は多少なりともあるってことかな。才といえば………、良太ちゃん、俳優やってみる気はまだない?」
 ハハハと空笑いして、良太はまたかと一つため息をつく。
「いい加減その話題を藤堂さんの頭の中から削除してもらえるとありがたいです」
「残念ながら、今ここで削除してもあちこちにバックアップしてあるからねぇ」
 藤堂は自分のこめかみ辺りを指でつつく。
 と、また良太のポケットで携帯が震えた。
 まさかまた沢村じゃないだろうな、と取り出して画面を見た良太は、社長、の文字に慌てて立ち上がる。
「はい、お疲れ様です」
「そっちはどうだ?」
 良太は襖を開けて廊下に出た。
「あ、今のところ何も問題ありません」
 久し振りに聞いた工藤の声に心なしか声が上ずってしまう。
「そうか。明日、夕方の五時に成田に着く」
「五時ですね、わかりました、迎えに上がります」
 何だか、やっと帰ってくるという感じだった。
 問題もないとは言ったものの、実際は何とかなったからで、良太にしてみれば何かとわんさかあったのだが、今ここで話すことでもない。
 いつものごとく、頼む、くらいでそっけなく切られたが、やっと工藤が帰ってくるというのは嬉しかった。


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