春立つ風に10

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 この企画は例によって実はドキュメンタリーが好物の工藤と工藤の元MBC時代の仲間で今はフリーとなったディレクター下柳が立ち上げた企画で、MBCに枠を取ることができたため、ここ何年か携わっている絶滅危惧種の動物にスポットを当てたレッドデータアニマルズの企画と並行して着手することになった。
 番組のナビゲーターも数名の俳優にまだ打診している段階だが、来春土曜の夜六時からの三十分番組で、とりあえず二クールを予定している。
 スポンサーは鴻池物産や美聖堂、携帯電話のキャリアNDIと、有名企業がメインで視聴率如何では引き続き制作できることになる。
 工藤は会社が潤うことより、経済的な冷え込みが続く中、長年一緒にやってきた業者の中には経営破綻や廃業に追い込まれた者も少なくなく、彼らに仕事を少しでも回せることの方に重きを置いている。
入社以来五年の付き合いともなれば、良太も工藤の考えていることくらい自ずとわかるようになるというものだ。
 鴻池物産の社長鴻池とは以前いろいろあったので、良太は苦手としているが、大学、MBCと工藤の先輩だった鴻池は工藤を非常に可愛がっていて、良太からすると盲目的に、こちらがお願いしなくてもサポートを惜しまない、有難いスポンサーだ。
 美聖堂の社長斎藤も工藤が青山プロダクションを興して以来の付き合いだし、NDIは良太が関わっているスポーツ情報番組『パワスポ』のスポンサーである。
 社員や俳優陣含めて十数名の青山プロダクションが小さいながらも右肩上がりの業績を残しているのは、そう言った堅牢なスポンサー陣が工藤の後ろに控えていることが大きい。
 そんなことを考えながらネットで検索を続けていた良太だが、ドアが開いて鈴木さんが弁当を携えて帰ってくると、急に腹が減ってきた。
「お帰りなさい、ありがとうございます」
「今日はハンバーグ弁当よ」
「マルネコさんのハンバーグって手作りって感じで美味しいですよね!」
 鈴木さんと一緒に窓際の大テーブルでハンバーグランチを堪能すると、良太は薬をお茶で飲み下して、出かける準備をした。
 スポンサーや今日のように初対面で頭を下げるような場合は、リュックではなく、ブリーフケースにタブレットや書類を入れる。
 秋山らの話を反芻して、スーツやコートも着替えた方がいいかもと七階にある自分の部屋へと向かう。
「ほんと、オフィスから五分て便利だよな」
 思わず口にして、良太は部屋のドアを開けた。


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