春立つ風に138

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「おそらくそうや。人間、秘密を持っとると、どっかで誰かに打ち明けとうなるもんやろ? 辻のネットワークの美弥って子が、自称長岡って家政婦が所属してた家政婦紹介所に潜り込んで、茶飲み話に長岡のこと探りを入れたら、前にほんとはロスから来たとか、変なことを言っとったて」
 千雪の話に、「なるほど……」と良太も頷いた。
「柏木さんと実は知り合いだったとか?」
「かも知れん。いずれにせよ、柏木は意図して自称長岡をロスから呼んで家政婦に仕立てた。その理由は、いずれ自分の影武者として殺すために、体型が自分に似て、血液型が同じやったら、焼死体になってしもたらわかれへん」
「って、工藤さんを陥れるために? っておかしいですよね、ボールペンにしろ、わざわざ工藤さんのを摺り替えたのに、使っていないとか。それで篠原が捕まったわけで」
「せやな。まあ、今日のとこは風呂入って寝るしかないな。明日帰るんやろ?」
 千雪はベッドに横になる。
「あ、パンツ、新しいのありますよ? 使います?」
「あ、せや、ほんまにコンビニ行こ思うとったんや」
 千雪ははたと起き上る。
「だからまた襲われたらどうするんです?」
 良太はバッグの中から新品のパッケージに入った下着を取り出して千雪に渡した。
「ほな、遠慮のう使わしてもらう。良太、はよ風呂入ってきたら?」
「え、じゃあ、ぱぱっと」
 良太はバスルームに飛び込んで、湯を張った風呂に浸かった。
 帰れば、宇都宮と小笠原のドラマも待っている。
 来週はロケもある。
 あまりにいろいろなことがあり過ぎて、頭がおかしくなりそうだ。
 知らずうつらうつらして顔が湯に浸かった途端、良太は目が覚めた。
「やば……」
 慌てて風呂から上がり、千雪がバスルームに入って行く。
 アラームは一応セットしたが、いつの間にか寝てしまい、千雪が上がったことも気づかなかった。

 
 

 帰りの新幹線で、竹野は千雪のことをやたら良太に質問してくるが、竹野としては、千雪に逢えて話ができたことで、割と機嫌がいいらしかった。
 東京に戻った良太は、慌てて自分の部屋にあがり、猫たちのトイレやご飯のお世話をさっと済ませてオフィスに戻った。
 良太としても結構無理やりの京都行きだったから、たまったデスクワークを鬼のようにやらなくてはならない。
 ひたすら良太がキーボードを打っていた午後のことだ。
 オフィスのドアがあいて、顔を見せたのは小学生の男の子だ。
「あら、ぼうや、どうしたの?」
 鈴木さんが立って、男の子を迎え入れた。
「良太さんっている?」
 良太は顔を上げた。
「良太は俺だけど?」
 一体、小学生が俺に何の用だ?
 良太は立ち上がって小学生に近づいた。
「これ、渡してって頼まれた」
 差し出された紙袋を受け取ると、中に入っていたのは携帯だ。

 


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