春立つ風に2

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「急ぎの仕事とかあるの?」
「まあ、全部が急ぎと言えば急ぎだけど……、行ってきます。下手してインフルとかだったらシャレにならないし」
 ということで良太には行きつけになっている裏の通りにある内科クリニックに駆け込んだのだった。
 受付ギリではあったが、良太の顔見知りの看護師が、いいですよ、と言ってくれたお陰で、診察を受け、インフルの検査もしてもらい陰性ではあったが、熱があるのでおとなしく寝ているように、と初老の医師には言われたわけである。
 言われたからと言って、はいそれじゃ休みます、とはいかないわけで、おむすびと梅を食べ、ポカリスエットで薬を飲み下すと、良太はしばらくデスクでボケっとしていた。
 今日はお弁当持参だった鈴木さんは、洗ったお弁当箱をバッグにしまいながら、そんな良太のようすを見た。
「ねえ、いっそのことお部屋で休んだら? 何かあったら呼ぶから」
「いや、そういうわけには………」
 本当は午後から行ってこようと思っていたところもあったのだが、人と会うわけではないので、今日はパスすることにしたが、老弁護士シリーズ十周年記念という仰々しいキャッチをつけて特別企画にした小林千雪原作のドラマ『今ひとたびの』のキャスティングも大方は思い描いたメンツを設定したので、脚本家の大久保に打ち合わせのアポを取ろうと思っていたのだ。
 だが確かに頭が重いし、薬が効いてくるまでくしゃみ鼻水であまり仕事にならなそうだ。
「年明けから良太ちゃん、ダイシャリンの活躍だったもの、今になってしわ寄せがきたのよ」
 大和屋のイベント、綾小路の初釜だけでなく、今年は青山プロダクションとしては初めて、社員とその家族のための慰労会なるものを開催したのだ。
 もとはといえば工藤が、昨年事件に巻き込まれて社員や知人を含めて面倒を掛けたことに対して結構思うところがあったようで、社員旅行というようなことを口にしたのが発端だった。
 じゃあ、というので良太がいろいろと考えあぐねた結果、出来れば青山プロダクション御一行様で海外、ハワイやグアムなどへ行けるものならではあったのだが、如何せん、俳優陣のスケジュールもあり、結局年明けに都内老舗ホテルでラグジュアリーな時間を過ごしてもらおうと社員とその家族を招待し、二泊三日の慰労会となった。
 その準備から決行に至るまで仕事の合間を縫って大わらわだったのが良太だ。
 お陰でみんなに喜んでもらえたらしいのは何よりだったし、良太の家族は皆参加してくれたのだが、帰りがけにそろそろ風邪を引く頃だから気を付けてと母百合子に念をおされたばかりだった。

 


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