春立つ風に3

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 冬になると百合子の言葉を思い出して、念のためにレトルトのおかゆを冷蔵庫の上にストックしておくのだが、この冬はまだ風邪も引いていないし、結構快調じゃん、などと思って油断したところに付け込まれたようだ。
 頭がぼんやりし始めたので、さすがに良太も鈴木さんの提案を受け入れることにした。
「じゃあ、すみません、俺、上で横になってるんで、何かあったら連絡お願いします」
 ノートをパタンと閉じると立ち上がってドアに向おうとした良太だが、足元がふらつき、思わずデスクに手をついた。
「まあ、良太ちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫…です」
 気力でオフィスを出ると、エレベーターまで壁伝いに歩いて乗り込んだ。
「ほんと、会社まで五分て、ありがたいよな~」
 ブツブツ呟きながら部屋まで何とか辿り着き、鍵でドアを開けると、ニャアアンとチビたちがお出迎えしてくれる。
「ワリぃ、ちょっと今は、お前らの相手してらんないかも」
 とりあえず上着を脱ぎ、ズボンも脱ぐとハンガーに適当にかけ、ベッドにもぐりこんだ。
 すぐに眠ってしまった良太だが、猫たちがベッドの上を歩くのに気づいて少し目を開けたが、傍でナータンの眠る息遣いが聞こえて、また良太は目を閉じた。
「風邪?」
 たまたま打ち合わせが早く終わった工藤が夕方オフィスに立ち寄ると、鈴木さんが良太が具合悪そうだったので、上で休むように言ったことを告げた。
「ちょっと頑張り過ぎたんですわ。多分熱もありそうで、良太ちゃん宛の連絡は急ぎではないとおっしゃったので、デスクにメモを残しておきました」
 コートはデスクの後ろのラックにかかったままなので、おそらくすぐに戻るつもりだったのだろう。
「わかりました。今日は俺ももう出掛ける用もないので、覗いてみます」
「よかったわ。一度お部屋を覗いてみようかと思ってたんですけど」
 帰り支度をしていた鈴木さんはちょっとほっとして帰って行った。
 工藤はコートも脱がずに自分のデスクにあったメモを見て二件ほど電話を掛けると、良太のデスクも確認し、照明を消すとオフィスを出た。
 エレベーターで上に上がり、鍵を開けて良太の部屋に入った。
 室内は灯りを落としてあり、良太はベッドで眠っていた。
 猫が一つ傍らで、もう一つは足元で眠っている。
 工藤はそっと近づいて額に手を当てた。
 確かに熱があるようだが、とにかく今は眠らせておこうと、工藤は自分の部屋に行った。
 シャワーを浴びてルームウエアに着替え、カーディガンを羽織ると、工藤は良太の部屋に取って返し、ベッドの良太のようすを見た。


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