革のハーフコートを羽織り、ビュービューと冷たい風が吹き抜ける通りを歩きながら、工藤は良太が入社してから何度か寝込んだり倒れたり、入院したりとこれだけ世話を焼かせるやつはいないぞ、などと心の中でブツブツと文句を言った。
だが、工藤自身、実は良太の世話を焼きたがっているなどとは一応気づかないようにしている。
コンビニで弁当やサンドイッチなどとポカリスエットとともに栄養ドリンクを買うと、工藤はたったか会社まで歩く。
警備員にちょっと挨拶をすると、工藤はエレベーターで七階へ上がった。
そっとドアを開けて良太の部屋に戻ると、良太は寝息を立てて眠っていた。
枕元で一匹、足元に一匹、さっきと同じように猫たちも丸くなっている。
慰労会では社員やその家族を慰労することはできたが、考えてみれば良太は逆に皆の世話で気を遣うばかりだったわけだ。
その上、工藤が関わっていたドラマの撮影中にベテラン俳優が虫垂炎で救急搬送され、代役を探すのに良太の手を借りた。
言い訳をするつもりはないが、万が一の代役は確保していおり、あと撮影が二回となったところで、次に入っていたドラマの主演俳優の都合でロケが前倒しになり、オーストラリアに飛んでしまうという顛末で、工藤としてはかなり切羽詰まったのだ。
ともあれ良太に必要以上の心労を課してしまったと思っていたところへ、案の定これだ。
ほんとなら良太をしばらく休ませてやりたいところだが、今日のように静かに過ごせるのはたまたまだろう。
キッチンでティーバッグのお茶を入れると、炬燵で弁当を食べた工藤は良太の顔を覗き込んだ。
良太はもともと童顔だが、眠っていると子どものような表情をしている。
工藤は苦笑してそっと手で額や頬を撫でた。
寒波はなかなか東京から去ってくれなかった。
翌日も冷え込みが厳しく、良太もベッドから這い出すのがきつかった。
ただ、昨日風邪で寝込んでしまった良太も、今朝は気分よくオフィスに出ることができた。
「おはようございます」
「あら、良太ちゃん、おはようございます。もう大丈夫なの?」
「はい! 昨日一日休ませてもらいましたから、今日はガッツリ仕事します!」
良太がデスクにつくと、「でも無理はしないでね?」と心配そうな顔で鈴木さんが言った。
「ええ、大丈夫!」
熱は下がっていたが、本当言えばまだ体がだるい。
だがそこは、気力とドリンク剤で乗り切ろうと言う良太だ。
朝方起きたら、工藤が炬燵に足を突っ込んでクッションを枕に眠っていた。
そういえば、夕べおかゆを作ってくれたんだっけ。
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