春立つ風に6

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 まああっためるだけなら誰でもできるだろうけど、工藤がやってくれたというだけで良太はちょっと嬉しかったのだ。
「あんたが風邪引くだろ、そんなとこで寝て」
「フン、炬燵ってのはなかなか寝心地がいいな」
 炬燵から這い出した工藤はそんなことを言う。
「なあに言っちゃって」
 コーヒーとサンドイッチで朝食を済ませると、工藤はそそくさと部屋を出て行った。
 映画『大いなる旅人』の撮影が大詰めである。
 工藤は今日からまた京都だ。
 俺も仕切り直しして仕事しないとな。
「どうぞ」
 良太がデスクでノートパソコンを開けていると、鈴木さんがコーヒーを置いた。
「ありがとうございます」
「まだ鼻声ね、ムリしないでね」
「あ、はい」
 プロ野球関西タイガースの人気スラッガー沢村を起用する東洋グループのCMの打ち合わせが木曜日に控えているため、その書類を作成していた良太だが、コーヒーを一口飲んだところで、携帯が鳴った。
「お疲れ様です」
 工藤である。
 既に新幹線に乗っているはずだが。
「宇都宮のドラマで使う予定のバーがいきなり潰れた。代わりをいくつか見繕っておいてくれ」
 例によって用件だけ言うとすぐに切れた。
「何だって? 潰れた? 確か、坂口さん押しの『超いかす』バーじゃなかったっけ?」
 来春あたり放映予定のはずだったが、超人気俳優宇都宮俊治と青山プロダクション所属の人気俳優小笠原祐二がダブル主演で、アクションを散りばめた医師と刑事のバディものという、脚本家の坂口がノリに乗って書いているドラマが、先週、前倒しになったと坂口から連絡があったばかりだ。
 キャスティングも主演の二人以外まだだと言うのに、秋とかってあり得ない、と思った良太だが、坂口は大御所の脚本家というだけでなくヒットメーカーとして知られ、昨年坂口が書いた宇都宮主演ドラマ『田園』は世帯視聴率は二けた、話題にもなった。
 年間ドラマアワードでも宇都宮とヒロインの竹野紗英は主演男優賞、主演女優賞を得た。
 これに気をよくしたのか、坂口がアクションものをやりたいと言っていたのが昨年の夏だが、工藤がメインスポンサーに東洋商事を担ぎ上げたところで、MBCもゴーサインを出した。
「だいたいそれがなんでまた今秋になるんだよ」
 良太はブツブツ文句を言うしかなく、ドラマで使うことになっていた『フール』というバーをネットで再検索した。
「ほんとだ。何だってあと一年くらいもたせないんだよ!」
 一時は芸能人やモデルなど業界関係者御用達という評判で、若者から坂口のような年配までに人気だったが、会社更生法を適用云々という記事を良太はざっと読んだ。
 せめてドラマの撮影が終わるまで待ってくれればよかったのに、と勝手なことを思いたくもなる。

 


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