春立つ風に7

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「『貴様と俺』とかって、ダサ………」
 ドラマのタイトルについては、坂口はダサかろうが覚えやすいからいいんだとごり押しされた。
 医師で格闘技の達人、椎名尊(たける)を宇都宮、破天荒で掟破り常習の刑事、小椋壮太を小笠原祐二、ダブル主演の二人以外では元警察の鑑識官でバー『Cat』のオーナー石井を『大いなる旅人』にも出演している橋本祐三、というところまでは決まっている。
 それ以外のキャスティングを坂口はまたしても軽く、「良太ちゃんよろしく」などと押し付けてくれる。
「良太、風邪もう大丈夫なの?」
 その時オフィスのドアが開いて入ってきたのは、所属俳優中川アスカだ。
 彼女の後ろからマネージャーの秋山が続いて入ってきた。
「ええ、風邪なんかに負けてる余裕はないんで」
 通り側にある大テーブルのソファに座って、アスカはガラス越しに寒々とした街を歩く人々を見下ろした。
「工藤さん、もう京都?」
「ええ今朝の新幹線で」
 良太はアスカにそう答えると、ネットで坂口さん押しの『超いかす』バーに匹敵するような、勝るとも劣らないバーを見つけるべく検索を続けた。
 利用しようとしていたのは、これまで良太が関わってきたドラマでは扱ったことがないような、リッチでシックなバーだ。
 実際いくつか見繕って、バーに行って自分の目で確かめないと、と考えると、それをやっている時間が惜しい気がする。
「アスカさん、秋山さん、どこか、リッチでシックなバーご存じないですか?」
 良太が知っていると言えば、工藤の行きつけの前田の店や、アスカがよく行く芸能人御用達の赤坂のクラブ、あと坂口に連れて行かれた古いバーや宇都宮と一緒に入ったペパミントという若者向けのバー、くらいだ。
 坂口押しだったバーと比べると、どれもリッチでシックとまではいかなそうだ。
「バー? リッチでシック?」
 鈴木さんにコーヒーをもらったアスカは、一口飲んでから良太を見た。
「ドラマで使うとか?」
 良太はざっと説明した。
「なるほど、宇都宮さんが行きそうなリッチでゴージャスなバーねえ」
 アスカが小首を傾げた。
「『大河』『ブルームーン』『シリウス』『倫敦』とか、思いつくのはそのあたりかな」
 秋山が羅列した店の名前を片っ端から良太はメモったが、ドラマのデータを照会すると、どれもちょうど撮影期間には都合が悪いか別のドラマで使われているなどの理由で利用不可とあった。
「ああ、どれもダメっぽいです。もう一度確認してみますけど、万が一予定変更になったりしてるかもだし」
 良太が受話器を取り上げて電話しようとした時、「ねえ、あそこは? 『Gatto』」とアスカが思いついて口にした。
「『Gatto』か」
 秋山はそう口にすると少し渋い顔をした。

 


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