「ギャット?」
「イタリア語で猫。『Gatto』は確かに高級なバーだが……」
良太が聞き返すと、秋山はそう言って言葉を切った。
「何かあるんですか?」
秋山の表情を見て良太は何かあるらしいとふんだ。
「ランドエージェントコーポレーション、近年急成長した不動産会社の所有するバーだが、実はCEO直轄らしいと聞いている。しかもCEOは曲者で、今まで何度か映画やドラマでも使われたことはあるんだが、使わせてくれといってもなかなかうんとはいわないし、CEOにも滅多に逢えないって、業界筋の話」
「あの曲者CEOね」
アスカまでが同意した。
「知ってるんだ? アスカさん」
「海老原礼央、昔はモデルとかやってたことあって、小学生の頃かな、女の子にちょっと騒がれたこともあったのよ。海老原礼央は高校生くらいだったかな」
アスカの話に秋山が続けた。
「ドラマにもその他大勢で出たこともあったけど、どうも制作サイドからは使いづらいとみなされて、それっきり業界からは消えたらしい」
「使いづらいとか曲者とか、そんなに問題児なんですか? その海老原さんて」
良太の問いにアスカが、「うーん、問題児とかじゃないけどさ」と言いながらコーヒーを飲み干した。
「おっと、そろそろ時間だ。アスカさん」
「とりあえず、そのランドエージェントコーポレーションにダメモトでアポ取ってみます」
秋山が立ち上がると、良太は言った。
「そうか、まあ、とにかく、気を付けて」
「行ってらっしゃい」
二人を送り出してから、「気を付けてって何?」と良太はぼそっと口にした。
ランドエージェントコーポレーションに連絡を入れると、秘書の上田という男が対応して折り返し連絡を入れると言った。
「他にも候補探すか。坂口さんの要望にドンピシャって感じなんだけどな」
ネットで『Gatto』のサイトを見たが、非常によく作られていてビジュアル的にも集客力がありそうだし、とにかく画像はクールでリッチだ。
むしろ坂口押しの『超いかす』バーよりずっといい感じだと良太は思ったのだが。
しばらくネットを検索していたが、『Gatto』を見たあとだとどれも見劣りがする。
と、電話が鳴った。
「はい、広瀬です」
待っていたランドエージェントコーポレーションの上田からで、今日の午後二時なら会えるがそれを逃すと、次はいつになるかわからないというので、良太は即、伺いますと答えた。
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