ほんの少し届かない29

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 客がぞろぞろと部屋を出て行き、下柳も残り物をたらふく平らげた村井や石川を引き連れて暇を告げ、ケータリングサービスの面々も引き上げる頃、小笠原や志村がそれぞれのマネージャーとともに帰り、翌日のことを考えて早くあがろうと言っていたにもかかわらず最後までいてくれた秋山もアスカを連れて会社を出た。
 鈴木さんにも、あとの片づけは明日にしようと言って帰すと、一人になった良太はふうううと大きく息をついた。
 時計はそろそろ今日の終わりを告げようとしている。
 工藤には食事を取れと言ったものの、目まぐるしさにほとんど乾杯の時のシャンパンを口にしただけだった良太は、急に空腹を感じた。
「カップ麺あったかな~」
 空調を落とし、灯りを消してリラクゼーションルームの鍵をかける。
 自分の部屋に辿り着いた良太は、疲労困憊の頭でまとわりついてくるナータンの世話をやき、スーツを脱ぎ捨ててベッドに倒れこんだ。
「う~~、腹、減った………」
 呟きながらもどっと押し寄せた疲労感に瞼が自然と落ちる。
 どのくらいそうしていたろうか、唐突に鳴り響く『ワルキューレの騎行』に良太は飛び起きた。
「はい、お疲れ様です! ええ、万事滞りなく終わりました。工藤さんの方は?」
「忘年会は終わったが、これからもう一軒つきあう。明日は午後イチでオフィスに寄る」
 それを聞いた途端、良太はトーンダウンする。
「そうですか。俺、昼から『知床』の編集でスタジオ入って、そのあと『パワスポ』の打ち合わせの予定です」
「そうか、何かあったら、携帯に入れろ」
「わかりました。あの、何度も言うようですけど、ちゃんと食べてくださいよ」
「わかったわかった」
 ブチッ。
 相変わらずそっけなく携帯は切られた。
「なんだかなぁ」
 そうだった、カップ麺を食べるんだった、と良太が何度目かのため息とともに立ち上がったちょうどその頃、工藤は老舗の大手化粧品会社『美聖堂』の社長斎藤とその取り巻きとともに、銀座にある会員制クラブになだれ込んできたところだった。
「良太ちゃん? こっちに呼べばいいのに」
「今夜はうちの忘年会だったんだ」
 隣でグラスを傾けているのは工藤ともども忘年会に呼び出された山内ひとみだった。

 


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