ほんの少し届かない31

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「長いつきあいだろう、いい加減結婚に踏み切ったらどうだね? ん? ひとみくんも工藤くんもいろいろと過去にはあったかもしれないが、やっぱりお互いが一番、てとこじゃないのかな?」
「いやですわ、社長。今更ですって、ほら、私たちつきあいが長すぎて、それこそお互い空気みたいな存在って感じで、結婚のけの字も出てきやしませんわ」
 一瞬の沈黙を破ってひとみが軽く、それでもはっきりと訂正する。
「ちょっと、高広も何とか言いなさいよ」
「あ、いや…」
 肘で小突かれてもあまりに範疇外の話題に、返すべき言葉が咄嗟に出てこない。
「くされ縁というだけで、お互い結婚などとはかけ離れた存在ですから」
 ロマンスグレイの斎藤は「そうかね」とソファにもたれて二人を眺めながら、「まあ、いいさ。結婚というカテゴリーにはめなくてはならないものでもないからな。今の世の中」と、彼にしては通りのわかった言い方をした。
「うちの娘は二十四で嫁いだが、あとになってそんなに焦らなくてもよかったんじゃないかと思ったりね。婿殿は二十六だし、二人とも早いという年でもなかったのだが…」
 今度は愚痴っぽい話になりそうだった。
 早いという年でもない、か。
 良太も二十六だったなと工藤は思う。
 焦らなくてもよかったなどと言いながら、斎藤は娘の結婚を涙を浮かべて喜んでいた。
 親ならそんなものだ。
 良太の親も当然、いつかはと期待しているだろう。
『お兄ちゃんには将来があるんです!』
 良太を怪我させた事件で、妹の亜弓が工藤に投げつけた言葉がふいに蘇る。
『おにいちゃんにだって、これから結婚したり奥さんや可愛い子どもと、ささやかでも幸せな家庭を作る権利はあるんです』
 こんな時工藤は考えざるを得ない。
 それこそヤクザな自分についてきたところで、良太にどんな将来を与えられるというのか。
「ちょっと、高広!」
 再び肘鉄をくらったのは、ようやく斎藤から解放された帰りのタクシーの中だった。
 工藤が送るからとひとみのマネージャーの須藤はクラブに入る前に帰した。

 


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