ほんの少し届かない33

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「良太ちゃんと随分会ってないから、そのうち飲みに誘ってよね」
 工藤より飲んでおきながらしっかりした足取りで、ひとみはマンションのエントランスの中に消えた。
 全く気ばかり強い女だ。
 だが、落ち込むと自分自身でコントロールがきかなくなり、生まれ育った街にある弦光寺の和尚のもとへ逃げ込んで周りをパニックにさせる。
 天の岩戸に隠れた天照大神ではないが、昔は工藤でなければひとみを連れ帰ることができなかった。
 工藤が不在の時、一度マネージャーの須永とともに良太が迎えに行ったことがあるが、以来まだそこまでの状況に至ったことはとりあえずはない。
 互いの弱みも知る仲だからこその長いつき合いだ。
 苦笑いを浮かべて工藤は運転手に高輪を告げる。
『ちゃんと食べてくださいよ』
 あのバカもだ。
 俺の腹具合より、自分のことを忘れてるだろうが。
 熱を出しても気づかないでうろついているバカだからな。
 間違ってインプリンティングされたこともわからないとしてもヒヨコは可愛いに違いない。
 
 

 ――――ただ、俺に面倒な後ろがなければな。
 いや、なかったらどうだというんだ。
 座席にもたれ、工藤はしばし目を閉じた。
 
 

 


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