ほんの少し届かない39

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「志村さん、行けそうですか?」
「終わり次第だ。NGで手こずらせているやつがいて、伸びてる」
 良太はゲッとこっそり口にする。いつぞやの良太のドラマ出演で散々手こずらせた忌まわしい過去をまた工藤に思い出して欲しくはないのだ。
「あっ、『やさか』の最中、これ美味しいんですよ。こないだ、雑誌に載ってるって鈴木さんに言われて買ってみんなで食べたんですけど」
 良太はドラマの話題から工藤の意識を逸らそうと咄嗟に菓子の話に切り替える。
「ふーん」
「でも、あの『やさか』の店長、千雪さんの幼馴染っていう黒岩さんって、何か、お菓子屋さんってより、格闘技の選手みたいですよね。大きいし」
「研二は柔道をやってる。今も続けているらしい」
「え、そうなんですか、どうりで……」
 工藤と『やさか』の話をしたのは初めてだったが、研二、と呼ぶほど工藤とも親しいのかと、ふと良太は思う。
 そんなことを考えているうちにエレベーターは受付のある一階に着いた。
「青山プロダクションの工藤と広瀬ですが」
「承っております。エレベーターで二十六階へどうぞ」
 にっこり良太に微笑みかける受付嬢とは顔馴染みで、良太のことも覚えてくれているせいか、対応はスムースだ。
「お忙しいところ恐れ入ります」
 社長室の隣にある応接間に通され、工藤が挨拶するのに、紫紀は「こちらこそ、ご足労いただきまして、有難うございます」と態度は丁寧だ。
 いつもながら京助の兄とは思えないくらい礼儀正しく、下っ端とかえらいやつとかの差別をするわけでもなく、良太相手にもいつも親切だ。
 よく見ると顔は似てるんだけどな。雰囲気ってやつが違うよ、京助とは。
 良太の中では、京助という男は、横暴が服を着て歩いている手合い、という分類になる。

 


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