ほんの少し届かない40

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「いよいよ、年明けには『知床』も放映ですね。どんな調子ですか? 良太くん」
 三人になると、紫紀は親しげに、良太くん、と呼ぶ。
「はい。今、最後の調整に入っているところです。下柳が妥協しない人なので」
 良太は正直に受け答えする。
「なるほど。しかし、身体を壊さないようにしてくださいよ。『春の夜の』の方も、前評判は上々みたいですね。年明けの大和屋のイベントの方もご尽力いただいているようですし、楽しみにしてますよ」
 紫紀との和やかな雑談は三十分ほどで切り上げ、工藤は暇を告げた。
 ただ、ぜひまた初釜にお越し下さいと言われた時には、良太はちょっと笑顔がひきつりそうになった。
 綾小路の家ではアットホームな時間を過ごすことができたのだが、前に招かれた初釜のときはとにかく足がしびれて参ったのだ。
「やっぱ、行かなくちゃなりませんかね~」
 エレベーターの中で良太がボソッともらすと、「接待だと思って心して行くんだな」などと工藤は笑う。
「ああ、香席も用意するって言ってたな、香を聞くのはお茶くらいではすまないから覚悟しとくんだな」
「へ……冗談きついですよ~、何ですか~、コウヲキクって」
「香道だ。綾小路の家は古いからな。せいぜいよく勉強しておけよ」
 工藤はニヤニヤ笑っている。
「ちぇ、面白がってるし………」
 『雅楽』に出向く前に一度オフィスに寄るという工藤を乗せて、良太は乃木坂へと車を走らせる。
 何だか、工藤の運転手を務めるのも久しぶりのようで、良太はちょっとばかり嬉しい。
 俺って、お手軽なやつな~
「そういえば、二十四日って、名古屋でしたよね、お帰りは何時くらいになりそうですか?」
「一席は持つから、わからないな。帰るのは二十五の朝になるかもしれん。何かあったか?」
 これだよ。

 


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