ほんの少し届かない45

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「ヤギさん、お疲れ様です。スタジオは?」
 良太が声をかけると下柳がにやっと笑う。
「おう、良太、ちょっと抜けてきた。俺が横でああだこうだうるさく言うもんだから、編集できねぇってさ」
 下柳は藤堂から焼酎の入ったグラスとワインを受け取り、ひとみにワイングラスを渡すと、そのままひとみに腕を取られて料理が並ぶテーブルへと歩いていく。
「藤堂、皿空いたから料理取り替えるぜ」
 悠が大きな皿を手に藤堂に声をかける。
「大丈夫かい? 悠ちゃん」
「ガキ扱いすんな!」
 上目遣いに悠は言い放つ。
「そういえば、玄関にかかってる絵、五十嵐さんですよね?」
 玄関の鏡の向かいにかかっていた楕円形の額に収まった絵は愛らしい猫の絵だ。
「おう……」
 一見して華奢な美少年は、相変わらず挑むような目で良太を見る。
「あれ、可愛いし和むよな~」
「………チビスケは可愛いに決まってる」
 照れくさそうにでも言葉はちょっと乱暴に言い放つと悠はキッチンへと向かった。
「………そうなんだよ、可愛い猫だったんだがね……」
 深刻そうな顔で言う藤堂に、良太は想像をたくましくして言葉をなくす。
「え……それじゃ……」
「ちょっと、勝手に故人みたいなこと言わないでくれます? 藤堂さん」
 割って入ったのは浩輔だ。
「チビスケはこっちはうるさいって寝室で寝てます」
 ビシッと言い切って浩輔は藤堂をちょっと睨む。
「ハハハ……そう、チビスケは河崎家の主でね、達也もその足元にはひれ伏すという」
 良太の肩から力が抜ける。
「ったく、藤堂さん! からかわないで下さい。ああ、そういえば河崎さんて、猫については妙に詳しかったですよね、イタリアロケの時も」
「そうそう……あんな顔して、チビスケにはゲロアマだからな」
「でも藤堂さんも、動物愛護センターとか盲導犬協会とかに、いろいろ寄付してますよね」
 浩輔が言うのに、良太は藤堂はやはりあなどれないと再認識する。
「喜んでもらえればワンコもニャンコにもサンタは参上するんだ」
 ニカニカ笑う藤堂の手元で、またドアフォンのランプが点滅する。
「はい、ああ、良太ちゃんのお友達ですね? 左端のエレベータでどうぞ」
 沢村が来たらしい。

 


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