ほんの少し届かない50

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 今ひとみの後ろでワインを飲んでいる須永が東京駅まで迎えに来ていて、何事だと尋ねる工藤を麻布まで送ってきたというわけだ。
 来てみたら、何てことはない、これだ。
 楽しそうに笑う良太を見て、工藤は苦笑いする。
 まあ――――――
 戻るつもりだったのだが。
 やがて、ピアノの弾き手は変わったようだ。
 弾き語りでホワイトクリスマスを歌い始めたのはキョウヤだ。
「良太、帰るぞ」
 工藤はぼんやりキョウヤの歌を聞いていた良太に耳打ちすると、良太は「あ、はい…」と慌てて後に続く。
 二人に気づいた藤堂がさりげなくクローゼットから二人のコートを持って玄関まで送ってきた。
「すみません、河崎はまだ戻らなくて、せっかくきていただいたのに」
「いや、突然邪魔をしたな」
「とんでもない、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございます」
 藤堂は丁寧に礼を言った。
「あ、良太ちゃん、これお土産」
 良太に差し出したのは綺麗にラッピングされたワインボトルだ。
「甲州ワインだよ。うちの兄貴の奥さんの実家がワイナリーなんだ。古酒もいいけど、若いのもフルーティで美味しいよ」
「わあ、ありがとうございます」
 良太はニコニコと受け取るが、工藤の顔を見て気が抜けたのか、ちょっとふわふわして足元がおぼつかない。
「メリークリスマス」
 藤堂が言うと、良太も「メリークリスマス」とドアを閉じる。
「このワインもさっきいただいたけど、美味しかったですよ」
 機嫌よさそうにひょこひょこ歩く良太の腕を掴み、工藤はタクシーを拾う。
「お前の猫はどうした?」
 タクシーに高輪を告げてから工藤は良太に聞くが、「らいじょうぶれす……鈴木さんにお願いして……」のあとは続かず、窓に寄りかかって眠ってしまった。
 仕方なく工藤が良太の頭を自分の方に向けると、良太はそのまま工藤の膝に崩れた。
 雪は一瞬の夢のごときものだったようだ。
 外はまた雨に変わり、しとしとと降り続いていた。
 

 


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