ほんの少し届かない52

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「うそっ、間違えた!?」
 翌日、外回りから戻った良太は会社に戻ると、まず自分の部屋に上がった良太はドアを開けたものの、思わずまた閉じてしまった。
 フロアの階数を確認したりして、隣の工藤の部屋を念のため、スペアキーで開けてみる。
「やっぱ、工藤の部屋じゃん」
 ぶつぶつ言いながら、もう一度恐る恐るドアを開けると、なあーーーーん、と可愛いナータンがとっとこ駆けてくる。
 とりあえずナータンを肩に、良太はしばし呆然と自分の部屋を見回した。
 炬燵は、ある。
 ナータンのトイレやご飯のトレー、窓際にはネコタワーもある。
 だが、それ以外の全てがまるで嘘のように変貌していた。
「小公女セーラかよ!」
 重厚なモスグリーンのカーテン、モスグリーンの絨毯。
 カーペット、ではない。
 落ち着いたダークブラウンのクローゼットにデスクに椅子。
 デスクには新しい電話器、フロアスタンドに、何より、部屋の真中にでんと居座っているのはダークブラウンのヘッドボードも新しいベッドだ。
 セミダブルサイズだろう。
 見慣れたパイプベッドやパイプハンガーは影も形もない。
「だれだよっ! んな、勝手に、人の………まだ十分使えるって言ったのにっ!」
 誰だと口にしなくても、心当たりは約一名しかいない。
「あ、鈴木さん!」
「あら、おはよう、良太ちゃん」
 勢い込んでオフィスに降りた良太は、鈴木さんののんびりした声に迎えられた。
「おはようございます、あのっ……」
「夕べナータンにご飯あげたら、綺麗に食べたわよ。今度のキャットフード、おいしいのかしら」
 良太は、はあ、と生返事をする。
「あ、あの、夕べ、その、俺の部屋、何か変わったことありましたか?」
「良太ちゃんのお部屋? いいえ、まさか泥棒でも入ったの?」
 ぶんぶんと首を横に振る。
 その逆なんだけど。

 


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