ほんの少し届かない53

back  top  Novels


「別にいつものとおりだったわよ。ベッドの上にスーツ脱ぎ捨ててあったから、ハンガーにかけておいたのはあたしだけど」
「あっ、そうですか、ありがとうございます」
 では、鈴木さんが帰ったあとか。
「そういえば、平造さんが珍しく工藤さんのお部屋にあがって行ったわね」
 そうか。
 それで謎が解けた。
 工藤がいなくても平造さんが………
 待ちかねた電話は、夕方、スタジオで編集の作業中にようやくかかってきた。
 良太は外に出ると、思わず声を上げる。
「あんた、何で、勝手にあんな………」
「何だよ、お前のお歳暮のお礼だろ?」
 嫌味かよっ! 今年はでもカミュのVSOPとかを張り込んだんだからナっ!
 下手くそな字でお歳暮と書いたら、またしても『OLDMAN』のマスターにかすかに笑われた気がするが。
「だって、パイプベッドだってまだ使えたのに……あんたがとっかえたかっただけだろっ!」
「あんなやわなもんでやったら、潰れる……」
 ぶちっ! と切ったのは、夕べの今日であれやこれやが怒涛のように舞い戻り、頭のてっぺんから沸騰しそうになった良太の方だった。
 
        おしまい

 


back  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ