ほんの少し届かない7

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「こっちは平穏無事なんだけどね、こないだお父さんがちょっとぎっくり腰やって」
「えっ、大丈夫なのか? 親父」
「ちょっと休んでのんびりさせてもらったけど、もうちゃんと仕事してるから」
「ほんとかよ。気をつけてよ、母さんも父さんも年を考えて無理しないでくれよ」
「あら、まだまだこれからよ。ふふ、大丈夫。それより良太こそ、ほんとに気をつけてね。ちゃんと食べてるの?」
「ああ、食べてるって」
「お正月はこっちこられそう?」
 どうやらそれが聞きたかったのだろう。
「ああ、ちゃんと休みもらって行くから。また電話するよ」
「そう? 待ってるわ。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
 久々の明るい母親の声に、何となくほっとして受話器を置いた。
「さてっと、風呂でもはいろっかな~」
 良太はナータンを撫でながら、話しかける。
 大抵はざっとシャワーを浴びて寝るだけだが、少し時間に余裕があるときは、バスタブに湯を張って入浴剤でも入れてゆっくりつかるのが、良太にとってはささやかな幸せなのである。
 もともと工藤が使うつもりだったのはこの部屋だったらしく、アメリカ製のバスタブも工藤に合わせて大きめだから足をのばしてもまだ悠々だ。
 タイル張りのバスルームに据え置かれたバスタブとトイレやシンクが仕切りがない欧風な造りになっているのも、工藤が半分アメリカ人であるという理由からではなく、工藤が育った横浜の家の造りが欧風だったからと、曽祖父母が亡くなってから工藤の面倒をみてきた平造がこのビルの設計を請け負った建築家にいろいろと注文を出したからだ。
 今工藤が使っている部屋は平造が使うようにと工藤がこのビルを建てるときに用意したものだが、軽井沢に腰をすえた老獪は自分にはもったいないと使う気配もなく、忙しい時に使えるようにと工藤使用に模様替えしてしまった。

 


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