寒に入り10

back  next  top  Novels


 一応自分で何とかしようという気はあるらしい。
 しかし、家族ぐるみの慰労会だから、家族がいる社員はいいが、真中のように家族のいない者にとっては、逆につらいんじゃないだろうか。
 今度はそんなことを考えて、良太は眉を顰めた。
「おいおい、今度は何を思い悩んでるんだよ」
「いや、だから、真中みたいに家族がいない場合、楽しそうな家族を見るのはさ」
「ああ、もう、それ、考えすぎだから。真中とかは今彼女とラブラブなんだから、そんなこと思う余裕なんかないさ」
「まあな。考えても仕方ないから、ボッチでも楽しくなるような何かを用意しとかないとな」
「おい、ボッチとかいうな!」
「事実だろ」
 小笠原はムッとした顔をしたが、「カラオケ!」と宣言して目を輝かせた。
「却下!」
 即座に良太は返す。
「何で?」
「温泉旅館じゃないから、都内高級ホテルでカラオケとか無理。カラオケはお近くのカラオケバーへどうぞって言われるだけだろ」
「ふーん、ま、それでもいっか」
「最低二泊の予定で、一晩は親睦会でいいと思うけど、あとはやっぱリクエストもらってできる範囲で手配するとか? 観劇とか?」
「だから、それこそ、テレビ局ツアーだろうが。好きなタレントに逢う!」
「まあなあ。あ、忘れないうちに言っとくけど、例のドラマほぼ本決まりだから、キャスティング決まったらよろしくな」
「ちぇ、良太、やっぱ工藤にマインドコントロールされてるぞ」
「るさいよ!」
 小笠原とああでもないこうでもないと言い合ったことで、良太は懸念していた慰労会の中身が見え始め、帰る道すがら案外真剣に色々と考えてくれた小笠原の顔を思い出して笑った。
「ああ、でも、シェークスピアも読まなきゃだなあ」
 内容が重々しそうな古典文学のことを考えると良太はしばし憂鬱になりつつ、乃木坂の駅で地下鉄を降りて階段を上がる。
 地上に出て歩くこと三分、青山プロダクションビルに着いて警備員に挨拶をして、良太はエレベーターに乗った頃には既に酔いも覚めていた。
 携帯が鳴ったのは、良太が風呂から上がって猫じゃらしで猫たちを遊ばせている時だった。
「え、こっち帰ってるんですか?」
 高輪に戻っているとばかり思っていた工藤が、隣からで、酒を付き合えという。
「よおし、また遊ぼうな」
 二つの可愛い猫を交互に撫でてやりながら立ち上がると、良太は部屋を出た。
 通夜に行くと言った工藤の顔を見て、ああ、これはかなりきつそうだとわかるくらいには、工藤との時間を共に過ごしてきた。
「明日のお葬式にも行くんですか?」
 好きなバカルディをグラスに注ぐ工藤に、良太は聞いた。
「いや」
 良太にグラスを差し出しながら、工藤は首を否定した。
「俺が顔を出すと、さざ波が立ちそうな気配もあるからな」
 苦笑する工藤の言葉に、良太はその心中を察した。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村