寒に入り2

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 昨年末のクリスマス、やはり東京は寒波に見舞われ、交通機関が乱れるほどの雪が降り、革靴でベタ雪の道を歩いた工藤は、見事に足元はぐちゃぐちゃになり、幾度となく転びそうになった。
 待ち合わせた良太はちゃっかり雪用のスニーカーを履いて、靴はリュックの中という技を使って見せた。
 クソ生意気に。
 そう心の中で呟きながら、今日の工藤は雪用のスニーカーを購入し、革靴をその箱に入れた紙袋を手に持った。
 負うた子に教えられるとはこのことだ。
 ほくそ笑みながら中央線の武蔵境駅で降りると、駅前からタクシーに乗った。
 無論、タクシーを待つ何人かの列ができていたが、暮れの雪で学習したのか、傘が必要なベタ雪が降り注ぐ中、大抵が雪対策用のスニーカーなどを履いていた。
「景徳寺ですか。いつもなら十分程で着くんですが、今日はちょっと時間かかりますよ」
 あらかじめそう念を押した運転手に、「かまわない」と告げた。
 それを見越して、早めに出てきたのだ。
車の中でスニーカーを靴に履き替えながら、工藤は入社したての、尖った自分をにこやかに押さえてくれた大野の顔を思い出していた。
 局内でも有能なプロデューサーとして知られ、工藤が退社する頃には取締役になっていた。
 大らかで、特異な出自ということで工藤を蔑視するようなこともなく、むしろ背中を押してくれた恩人だ。
 だが、大野が目をかけていたのは工藤だけではない、我こそが大野の弟子だと自負するような者もいて、工藤を敵対視した。
 そのうち工藤は鴻池と組むことが多くなり、次第に大野とは距離ができた。
 辞めることを報告に行ったその時が、今思うと大野との最後のやり取りとなった。
 あまり派手にはやるなという父の意思で、家族葬のようなものですから、よろしかったら最後に父に会ってやってください。
 ゆり子といった大野の娘には、一、二度局を訪れた時に会ったことがある。
 決して派手ではなかったが、大野に似てはっきりした顔だちの美人だった。
「実はね、ゆり子がどうも君に惚れたらしくてね。どうだね、うちの娘と付き合ってみるとか?」
 飲み屋のカウンターに座ると、大野がそんなことを言い出した。
 その頃の工藤は、恋人のちゆきの死を未だ引き摺っていて、仕事以外では女を手あたり次第というような時期でもあった。

 


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