寒に入り6

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 前の事務所というのも、元バンドマンだった小笠原の父親が在籍していたことから成り行きで入った会社だった。
 元バンドマンの父親はさほど稼ぎがあったわけではなく、本牧にある小笠原の実家は、もともと裕福だった母親の家だという話だ。
「何だよ急に」
「だから、会社の親睦会。リッチなホテルでラグジュアリーに過ごすって方向に決まりかけているんだけど、お母さん、参加されるかな?」
「おお、そりゃもう、暇してっから喜ぶに決まってるさ。買い物と犬の散歩が目下のところオフクロの日課だから」
 陽気に笑いながら小笠原はたこわさをパクパクと食べ、通りかかったスタッフにビールのお代わりを頼んだ。
「問題は奈々ちゃんとこか」
「奈々ちゃん? 何の問題があるん?」
「奈々ちゃんちのお父さんはなあ、ちょっと因縁があって」
「工藤が?」
「いや俺が。奈々ちゃんオーディションで映画出演が決まってうちに所属することになったんだけど、奈々ちゃん、家の人に内緒で応募してたんだよな。で俺がその承諾をもらいに家に行ったんだけど、最初、お父さん大反対でさ」
「ああ、そらまた大変」
 良太は当時を思い起こしながら、「日参したけど、一度はホースで水かけられるとかさ」と大きく溜息をついた。
「何度目かで、何とか、家から通うとか、門限厳守とか、学校は必ず行かせるとか、ルールをクリアするのであればって条件付きでOKもらってさ」
「女子高生だったんだもんな、わからないでもない」
「奈々ちゃんのマネジャー兼ボディガードに谷川さんが決まったはいいけど、あの人、最初、工藤に敵対心ありありでさ、気苦労が多かった」
 今では谷川は、会社にとっても頼もしい一員になってくれているのが非常に有難いのだが。
「そうだ、谷川さんとこもさ、いろいろで離婚しちゃってるし」
「でも、子供の結婚式には出たとか言ってたじゃん」
「まあな。とにかく、ご家族が参加されるかどうか聞いてみないと」
「うちの連中、訳ありばっかだからな」
 小笠原がしみじみと言うのが、良太は可笑しくて笑った。
 確かに、こんな人気俳優でも事務所の社長に裏切られたという過去のせいか、疑心暗鬼になってなかなか人を信じられないらしい。
 せっかくできた彼女にも忙しすぎてフラれたばかりだ。
「何で笑うんだよ」
「いや、お前もうちの一員なんだよなって思って」
「てめ、そういう生意気なこと言うと、唐揚げもらい」
 素早く良太のさらから唐揚げをつまんで口に入れる。
「あ! 何すんだよ! 俳優のくせに、庶民から唐揚げ奪うなんて!」
 良太が抗議しているところへ、ビールのお代わりが運ばれた。

 


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